一番その人らしさが現れる家の空間。“好き”が詰まった“場”には、ちょっとした工夫や色合わせのこだわりが反映されているはず。そんなそれぞれ違った個性を持つ自宅の内装やインテリアについて話を聞いていく企画「イエの探求」。
古着のECサイト『from antique』を主宰するゆーみんさんが暮らすのは、部屋の中心にキッチンがある、ヴィンテージ家具が並ぶ風通しのいい空間。古着も家具も料理も、好きになったらとことんハマるゆーみんさんだからこその、家へのこだわりについて聞いた。
北欧への旅をきっかけにインテリアに目覚める
日当たりのいいリビングダイニングには、ミッドセンチュリー期の北欧家具やアンティーク店で見つけてきたラグやキャビネットが並ぶ。
「ソファにしているのは1950〜60年代のボーエ・モーエンセンのデイベッド。張り地もモーエンセンのデザインです。テレビ台は70年代のノルウェーのもので、キッチンのキャビネットは意外ですが50年代の日本の古道具なんです……」
部屋にある一つひとつの家具を説明してくれるゆーみんさんの顔は、とても嬉しそうだ。
インテリアに興味を持ったのは約5年前。最初に購入したのはフィンランドのデザイナー、アルヴァ・アアルトの「スツール60」だった。
「ちょうど同じ頃、買い付けでいつものフランスに加えて、デンマーク、フィンランド、スウェーデンを巡ったんです。その間、宿泊はAirbnbに。つまり、人の家に滞在していました。そこで初めて北欧の暮らしを体感して、すごく自分に合っていると思ったんです」
そして、このマンションへと引っ越したのを機に北欧家具を中心とした、統一感のあるインテリアに揃えた。
「僕が一番好きだったコペンハーゲンで泊まった家は、置いてあるもの一つひとつに哲学が感じられ、こんな家に住めたらいいなぁ、と明確に思いました。その影響なのか、僕がインテリアでもっとも重要視しているのが整合性。なので、マテリアルは布とウッドとアイアンで揃えています。ダイニングチェアはインスケ・クゥイトラがデザインした、70年代オランダのマルコチェア。これも素材は脚部が黒のスチール、天板はプライウッドでできています。下に敷いたラグはベニワレンでアアルトの自邸でも使われていたもの。フロアライトもシルバーとウッドが組み合わさったものにしています。特に著名デザイナーのものが欲しいわけではなく、アノニマスでも整合性が取れていればいいという考え方です。1本軸を決めたら、そこからはずれないのが僕のスタイルだと思っています」
時の経過を経たものに、ロマンを感じる
その整合性のなかには、時間も含まれている。置いてあるのはほぼヴィンテージ家具ばかり。
「古着もそうですが、年月を経ないと出てこない美しさがあるんです。どういう経緯を経て、この傷ができたのだろうと考えるのが好きなんです」
唯一無二だからというより、そういった時間の経過を肌で感じられるところに魅力を覚えるのだという。
「食器も一番、気に入っているのはフランスのビストロ皿。カトラリー跡など、人が使っていた痕跡がある。そこが素敵だなって。持ったときの厚みにも一目惚れしました」
だから、今使っているダイニングテーブルはいずれ買い替える予定だ。
「アイアンとウッドの組み合わせなので素材の整合性は取れているのですが、現行品なので部屋に置いたとき、ちょっとした違和感が出てしまう。これも50,60年代のものにすれば、もっと空間に馴染むのではないかと思っています」
また、1年前からワインにも凝るようになった。
「たまたま知り合いがワインのインポーターをしていて、その人がフランスのナチュラルワインの作り手を紹介してくれたんです。自分たちがどう作っているかを説明してくれて、畑やタンクも見せてくれた。そこで飲んだ1杯があまりに感動的で、すっかり虜になってしまいました。その衝撃はヴィンテージの服を好きになったときと一緒です」
そして、ここにも“時間”が大きく関わっている。
「もともとヴィンテージってラテン語で『ブドウを収穫する』という意味で、ワインの言葉なんです。衣食住すべて、時の経過と人の手がないと作り出せないものたちが今、自分の手元にあることにロマンを感じます」
インテリアやナチュラルワインと同様、この家に引っ越したことでどんどんのめり込んでいったのが料理だ。きっかけは3口のコンロがあるキッチンの存在だった。
「以前に住んでいたのが東京・新宿のど真ん中で、キッチンもIHのコンロ1口しかなかったので、お湯を沸かすことすらしなかった。ところが、ここに来たら、アイランド型の大きなキッチンがあり、しかもガスコンロだったんです。だったら、やってみようかな、と思って始めたら楽しくて、すっかり夢中になってしまいました」
外食をしていても、この料理の甘味は食材由来なのか調理法なのか、出汁は何を使っているのか、などを考えるようになり、自分でもその味を再現。
「料理は僕にとっては実験に近い。食べるというより作っているときが一番幸せです」
インテリアとワイン、そして料理。それはゆーみんさんのかけがえのない趣味になっている。
理想の住まいのあり方とは
そんなゆーみんさんが、もし戸建てをつくるとしたら、どんな家にしたいかも尋ねてみた。
「まず、1階の天井を高くしたいです。開放感あふれる空間がいいですね」
そこには意外にも、ものはほとんど置かないのが憧れだという。
「たくさんものがあってごちゃごちゃしているのも格好いいと思うのですが、自分が住みたいのは、だだっ広い空間の真ん中に大きなソファが2つあり、テーブルがあって、観葉植物がぽんぽんと置かれているような部屋。どちらかといえばミニマリスト的な暮らしです」
戸建てではなくアパートメントだが、映画『アメリカンサイコ』の主人公の家が、ミニマルで整合性が取れているという意味で、理想的だそう。
それは、ひとつのものをずっと大切にしたいという、ゆーみんさんのポリシーにも関係している。
「気に入ったものは長く使いたいし、処分はできるだけしたくない。ものにはすべて魂が宿っている気がするんです。だから、手にいれるときもすごく考えるし、厳選します。そうすると、あまりものはなくていいかな、と思うんです」
今の北欧家具に囲まれた暮らしは、その前哨戦のようなもの。経年変化を楽しみ、ものを大切にして暮らす。その心地よさは、この家に住むようになって知ったことだ。
「もし家づくりをするならば、自分にとって何が快適なのかをわかっていることが大切。そこをきちんと見つめ直してから進めたほうがいいと思います。人にダサいといわれても自分が居心地がよければそれでいい。“ブレない”というのは家づくりだけでなく、何をするにも大事なことだと思っています」
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STAFF
[Text]
三宅 和歌子
|出版社を経てフリーの編集者に。雑誌など紙媒体を中心に編集・執筆を行う。旅と猫が好き。