一番その人らしさが現れる家の空間。“好き”が詰まった“場”には、ちょっとした工夫や色合わせのこだわりが反映されているはず。そんなそれぞれ違った個性を持つ自宅の内装やインテリアについて話を聞いていく企画「イエの探求」。今回は、ご夫婦と子どもの3人で暮らす、能登俊平さん・春花さんの家のご自宅を訪れた。
中古マンションをリノベーションしてつくられた家には、厳選された家具や照明、土間のある玄関など2人のこだわりがつまっている。そこには、仕事・家事・育児を楽しく快適にするための工夫も。その都度話し合いながら、住まいのイメージを固めていったという2人。どのようにして、家族が心地よく暮らす空間をつくりあげていったのだろうか。
ホテルライクなインテリアにこだわった、わたしたちの心地よい暮らし
外観はごく普通のマンション。しかし、扉を開けた瞬間「ここはホテル?」と見間違うような空間が広がる。
この家に暮らすのは、能登俊平さん・春花さん夫妻。玄関にある1畳ほどのモルタル張りのスペースは、土間好きな2人がこだわった部分。玄関に入ってすぐにある洗面台も、この空間を演出するインテリアの一部となっている。
玄関からガラス戸の扉をあけて中に入ると、その先にはリビングダイニング。目を引くのは、ベッドを置いて使用している小上がりのスペース。木で作られた格子が、どことなく和のテイストを感じさせる。
春花さん「リビングにベッドがあることに驚く方もいらっしゃると思うんですけど、もともとホテルライクな部屋をイメージしてつくっているので、私たちからすると特に違和感はないんです。引っ越してきた当日に部屋が片付いていなかったので、マットレスをここに置いたらめっちゃいいやん!って」
玄関に洗面台、リビングにベッド。自分たちの理想と暮らしやすさを追求し、柔軟な発想で空間をつくる。固定概念にとらわれないからこそ発揮できる、自分たちらしさ。
俊平さん「2人とも、ホテルに来た気持ちになれるような空間をつくりたいということ、我が家を訪れた人たちがくつろいでもらえるような場所にしたいという意見は合致していました。参考にしたのは、大好きなAesop(イソップ)の店舗や京都のホテルカンラなど。小上がりは、谷尻誠さんが設計された和モダンなホテルを参考にしています。自分たちの感性に合う場所をピックアップして、内装のイメージを固めていきましたね」
ライフスタイルに合わせて変化する空間
以前は、デザイナーズマンションに住んでいたという2人。次のステージを賃貸ではなく、リノベーション物件を選んだのはなぜなのだろうか。
俊平さん「2人とも住まいに対するこだわりは少なからずあったので、最初はそういったこだわりを発揮できる部屋を賃貸で探そうとしていたんです。でも、僕たちが思うような部屋は見つからなくて。持ち家をリノベーションする方向なら自分たちが好きな形でできるかなと」
そこで好みに近い物件を手がけるリノベーション会社を探し、物件探しからスタート。理想に近づけるべく、スケルトンにして空間を一から構築した。写真や資料を見せながら、何度も打ち合わせを行ったそうだ。春花さんが特にこだわったのは、シンクとコンロのキャビネットが並列しているII型のキッチン。
春花さん「もともとアイランドキッチンに憧れがあったんです。キッチンだけ独立しているよりも、家族の顔が見える、全体が見渡せる方がいいなぁと思っていて。年末年始とかお盆は大人数で集まることも多いので、そういう時にみんなが気兼ねなく使える作りにしています」
デザインだけでなく、機能性にもこだわるのが能登家の鉄則。
俊平さん「キッチンや洗面などの水回りは、日々使うことを考えて掃除がしやすい素材を選びました。洗面も本当はコンクリートやモルタルがいいなと思ったんですが、長期的なメンテナンスを考えてメラミン素材にしています」
昨年は待望のお子さんが誕生。家族が増えても手狭にならないのは、ライフスタイルに合わせて変化可能な家づくりを心がけたから。
俊平さん「子どもが生まれた時にカスタマイズできるように、造作家具はキッチン側の棚やウォークインクローゼットなど数カ所のみにしました。ゆくゆくは、今僕がワークスペースとして使っている部屋を子ども部屋に、小上がりの上にカーテンレールをつけて夫婦の寝室にしたいなと考えています。あまり最初からつくり込みすぎないことは意識していましたね」
現在俊平さんがワークスペースとしている空間も、以前は夫婦の寝室として使っていたそう。空間に余白を残してしておくことで、生活スタイルの変化によってカスタマイズできる。理想の暮らしを実現するための、大きなポイントだ。
どの部屋に置いても調和するデザイン
部屋を彩るのは、シンプルながらセンスを感じる家具や小物たち。建築デザイナーの作品もあれば、無印良品やIKEAなど手に届きやすいものまで、ほどよくミックスされている。部屋に置くインテリアは、どのような基準で選んでいるのだろうか。
春花さん「大きめの家具や収納に関しては、無印やIKEAなど飽きがこない、どんなジャンルでも合わせやすいシンプルなデザインを選ぶようにしています。その代わりポスターやお花など小物で色を加えて、インテリアのポイントになるようにしています」
俊平さん「照明には特にこだわっていますね。リビングとワークスペースには、イサムノグチの「akari」、キッチンのペンダントライトは「NEW LIGHT POTTERY」の製品をチョイスしています。わりと定番の名作と言われるようなものが好きですね」
ワークスペースに使っている椅子は、カンディハウスの「KOTAN」。美しいデザインはもちろんのこと、座り心地もお気に入り。長時間座っていても、疲れないそう。
俊平さん「普段はワークスペースに置いてありますが、お客さんがたくさん来たときには、リビングで使用することもあります。どの部屋に置いても違和感がないことも、家具を選ぶ上での重要なポイントです」
大切にしたいのは、余白のある暮らし
ホテルライクでスタイリッシュな空間でありながら、居心地の良さを感じる能登さんのお家。この家に訪れる友人たちもついつい長居してしまうのだとか。
俊平さん「みんな、お茶飲んだら帰るからって言うんですけど、気づいたら夕方になってて。『じゃあ、夜ご飯食べて帰ったら』『お言葉に甘えるわ』みたいな感じになることが多いんですよ(笑)。気をつかわずにリラックスしてくれるんやなと思ってうれしくなります」
友達が集まる時は、II型のキッチンが大活躍。
春花さん「料理好きな友達が『めっちゃいい、このキッチン!』って、ベタ褒めしてくれました。調理台と水回りが分かれているので、人が集まってもスムーズに作業できるのもいいですね」
訪れる人も思わず長居したくなるほどの心地よさ。きっとそれは能登さん夫婦が暮らすうえで「余白」を大切にしているからかもしれない。
春花さん「空間の余白だけでなく、人と人が一緒に時間を過ごすうえでも余白って大切だと思うんです。私たちも余裕がないときはケンカしてしまうこともあります。でもそういう時こそ、テーブルを挟んで向かい合って座って、お互いの意見を伝え合うようにしています」
家づくりも、人との関係性においても余白が大切。そんな2人がお互いの好みや思考を尊重しあってつくった家だからこそ、来る人が楽しく、リラックスして過ごせるのだろう。家って、もしかすると住む人たちを表しているのかもしれない。
お互いの“好き” を詰め込んだ理想のお家とは
子どもも産まれ、2人暮らしから3人暮らしへと変化した能登家。これから先は、どんな暮らしを思い描いているのだろうか。理想の家について聞いてみた。
春花さん「憧れは平屋ですね。中庭をつくって、木や植物を植えたいな。息子も遊べるようなお庭があったらいいですね。あとはやはり、広い土間をつくりたいです。そこに椅子を置いて、友達を呼んでバーベキューをしたら、楽しそう!」
俊平さん「僕らは土間が欲しいねんな、とにかく(笑)。今の家にも理想のエッセンスが詰まっているんです。小さいですけど土間があったり、小上がりの奥はベランダになってるんですけど、扉を開けて座ったら縁側のように過ごせる。もし理想の家をつくるなら、今の家のこだわりをスケールアップしてみたいですね」
1人でも、2人でも。家族のこだわりを表現できるNONDESIGN 。それぞれの“好き”が調和し、新しい暮らしを描く。あなたなら、家族と、パートナーとどんな暮らしを描くだろうか。
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STAFF
[Text]
YUKARI MIKAMI