一番その人らしさが現れる家の空間。“好き”が詰まった“場”には、ちょっとした工夫や色合わせのこだわりが反映されているはず。そんなそれぞれ違った個性を持つ家の内装やインテリアについて話を聞いていく企画「イエの探求」。
今回はフリーランスPR/ディレクターとして様々な領域で活躍する田中遥さんのご自宅へ。
都心から離れた静かな住宅街に佇むアメリカンハウス風の集合自宅に奥さんの恵実さんとミーアキャットのマルムちゃん、タウくんの4人家族で暮らす。
アパレル業界で培ってきたセンスと独自の感性に裏付けされた家具選びやスタイリング、ギャラリーのような家が目標と語る田中さんの理想の住宅や譲れない家選びのポイントなどを聞いた。
ミーアキャットと名作家具に囲まれる。生活感と緊張感の両立
玄関を開けると直接リビングスペースに繋がるアメリカンハウスのような仕様。
そこには一切の収納家具がない極めて生活感の薄い空間が広がる。
「モダンやコンテンポラリーなテンションの緊張感のある空間にしたいんですよね。自宅はリラックスする場所みたいなイメージもあると思います。でも、僕は仕事も遊びも常に同じ価値観で向き合っているので、オンオフの意識はないですし、常にリラックスできています」
田中さんのご自宅にはその緊張感を表すように、どこか冷たい雰囲気の色使いやアイテム選びが目立つ。
ステンレスやレザー素材、黒とグレーを中心とした一つひとつのアイテムの間隔を広めに配置し、生活空間というよりギャラリーのような雰囲気さえ感じられる。
「目指すところはそこなんですよね。家具が作品のように配置され、そこに無理やり人が住んでるくらいが理想です。空間に余白がないとスタイリングとして格好よく見えないので、スペースを意識してアイテムも厳選しています。できるだけ生活感のない家にしたいので本当はソファだって置きたくないんです」
リビングの大きなソファは奥様の恵実さんの兼ねてからの希望。
家族の意見にもしっかり耳を傾けて生活空間としての快適さと少し狂気的なインテリアへのこだわりを上手く同居させている。
「棚はいかにも収納家具って感じがして凄く“生”っぽいんで絶対に置かないです。とりわけソファは肘置きや背もたれなど、四角く囲われていていかにも家具っぽくて生活感を感じるんですよね。でもこの家の中で一番買い替えている物でもあります」
理由は一緒に暮らすミーアキャットのマルムちゃんとタウくん。
警戒心が強く甘えん坊の性格だという2匹はいつも田中さん夫妻のそばを離れないという。
「これまでにもたくさんこの子たちの犠牲になった物はありますけど、特にソファは自動車を買えるくらい替えてますね(笑)穴を掘るのが好きな子たちですから。消耗が早いので唯一家の中で他のものよりこだわりが薄い家具でもあります」
大好きな家具の犠牲も厭わないほど溺愛する家族と暮らす田中さん。
2匹のワンパクな天使との生活は、“緊張感のある空間”という理想とでは矛盾を感じるような気も。
「ケージも高さを考慮したり、色や素材も他の家具と揃えて浮かないように意識していますね。お留守番用のケージのクッションも、人用の物を置いたりできるだけペット用品という風に見えないように工夫しています」
業界で磨いたセンスと独自の美学
田中さんの自宅にはガーリッシュなどに代表されるフレンチミッドセンチュリーやレザルクやベリアンにまつわるアイテムなど専ら“名作”と呼ばれる家具が並ぶ。そんな名作と出会うきっかけの一つは前職での環境。
「お世話になった先輩方は、ファッションはもちろんインテリアにも精通していてたくさんお話を伺いました。その影響もあってフレンチミッドセンチュリーの名作と呼ばれるガーリッシュのチェアを購入しました。アメリカの同年代の物と比べて、フランスの物は素朴さと繊細さを兼ね備えていて、派手さはないんですが、モダンなデザインが成立しているのが魅力です」
これまでファッション業界に長く従事してきた経験とそこで磨き上げたセンスは、田中さんに独自のスタイリング美学を生んだ。
「例えばVMDの基本として小物にしろ家具全体の配置にしろ、二等辺三角形の配置が黄金比とされているんです。空間が締まるというか。これをまず根底として僕は配置する物を徹底的に削っています」
田中さん独自の美学にはアイテムを買う段階からのスタイリングを見据えた考えも。
「アートやオブジェなどのコレクションって買ったら全部並べたくなるんですよね。この空間に関しては3つがベストなのに7つ並べちゃったりしてバランスが悪くて、モノの良さが伝わらなかったりしがち」
何かの為に先んじて買っておく、スタイリングを変えるための要素として控えておく意識も持つことがインテリアを集めていく上でも重要なポイント。加えるだけじゃなくて引く勇気も大切だということも厳選したアイテム選びの田中さんだからこその説得力がある言葉。
アートなどのある種の収集癖をくすぐる物は、目に触れるように主張させてしまいがちである。一方で全てを見せてしまうと空間のスタイリングを壊しかねない負の要素とも言える。家具にも同様のことが当てはまるという。
「椅子に関してはインテリアを好きになったら買いがちなアイテムの一つです。
アレもコレもと手を出すうちにブランドもデザインも素材もチグハグになっちゃいますよね。核となる雰囲気が決まった上でプラスするのが失敗しないスタイリングなのかなって思います」
収納家具を置かない生活環境で暮らす田中さんだからこそ言えるスタイリングへの提唱も聞いた。
「見せる収納ってのも、とても難しいスタイリングだなって。さっきのアートやオブジェの話に通ずるところでもありますが、下手にチャレンジしてしまうと相当知見がない限りは自己満足以上のスタイリングはできないかなって。ただなんでもかんでも目に付く雑多になってしまうだけなので」
引っ越したばかりの時は、リビングの真ん中にバタフライチェアとサイドテーブルだけだったというぐらいミニマルでソリッドな環境を好む田中さん。
「奥さんのこだわりや理想も叶えてあげたいんで、僕の本来の理想を実現するには圧倒的な広さが必要なんですよね」
そんなこだわりと美学を持つ田中さんの理想の自宅とは。
追求する狂気的インテリア愛
「こだわりも多いし、これからも好きな家具を自由にスタイリングできるように広い平屋の注文住宅がいいですね。床や壁材も無垢材よりモルタルやタイルの方がアルムとタウも生活しやすいだろうし、お世話も少しは楽でしょうね。僕が好きな家具との相性も良さようだし」
家具を中心に家づくりをする田中さんのこだわりは見落としがちな細部にまで至る。
「照明って四隅にスタイリングするのが美しいと思うんですが、コンセントがそこに配置されてない家が多いんですよね。家具をどこに置くかを想定して配線周りも拘りたいんです。自分がしたいことを100%表現できるように、変にデザインされていない箱みたいな注文住宅がいいですね。」
家具が作品のように配置され、そこに無理やり人が住んでるくらいの緊張感を感じたいという田中さん。こだわりという言葉では包括できないどこか薄らと狂気的なインテリア愛が滲み出る。一歩間違えば生活もままならない環境になりかねないほどインテリアへの無限の愛を感じる。
全てのスタイリングに独特の美学と経験に裏付けされた知識を感じる田中さん宅。
話す一つひとつの言葉に確固な理想への思いと流行やブームが介入する余地のない自身の感性への自信が溢れている。
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STAFF
[Text]
kohei kawai