民芸品の“揺らぎ”が彩る、築50年のリノベーションハウス | UNSTANDARD(アンスタンダード)
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2024.01.26

民芸品の“揺らぎ”が彩る、築50年のリノベーションハウス|イエの探求

民芸品の“揺らぎ”が彩る、築50年のリノベーションハウス

民芸品の“揺らぎ”が彩る、築50年のリノベーションハウス

 

一番その人らしさが現れる家の空間。“好き”が詰まった“場”には、ちょっとした工夫や色合わせのこだわりが反映されているはず。

そんなそれぞれ違った個性を持つ家の内装やインテリアについて話を聞いていく企画「イエの探求」。

今回は様々なブランドの運営などを手掛けるネペンテスに勤務する横溝さんの自宅へ。

 

都内の築50年のヴィンテージマンションをリノベーション。

L字に広がる自宅は、ミッドセンチュリーの家具や小物、世界各国から集めた民芸品などを織り交ぜた空間に。

リノベーションのポイントやゾーニングを意識したレイアウト、長年VMDとして活躍してきた経験を生かした家づくりのこだわりなどを聞いた。


築50年のヴィンテージマンション。今後を見据えたリノベーション

7年ほど前、転勤を機に奥さんと大阪から引越してきた横溝さん。

こだわりや個性が詰まった先輩や友人などの自宅を訪れるたびに持ち家への夢は膨らんでいったそう。

 

「今まで色んな物件に住んできましたけど、建具や素材、床、窓など細かいところまで気に入る物件はそうそうなくて。次に住むなら細部まで自由にできる持ち家がいいなって。私たちは、たくさん家具を置きたかったのでワンフロアかつ、リビングスペースが広くとれるマンションを中心に探しました」

 

自宅は都内を中心に20件以上内見を重ねた末に出会った物件。

豊田スタジアムや新国立美術館などを手掛けた黒川紀章氏の建築事務所がデザインした、築50年の低層マンション群の一室だ。

 

「黒川さんの件に関しては、後日知人から教えてもらって知ったんですよね(笑)。始めは本当かな〜って思ってたんですけど、管理人さんに聞いたりして事実なんだなって」

そんな偶然も重なり出会えた現在の家。

大阪から都内に引っ越すにあたり、間取りや広さを最優先にマンションを選んだ。

L字形のリビングダイニングの床には無垢のオーク材を敷き、天井の骨組みをむき出しにすることで、より開放感を感じられる仕様に。

ドアもシートを貼らない状態の合板を使用し、壁も白く塗装するのみと、工賃を抑えながら理想の家へと近づけた。

 

「リノベーションする際、造作家具をお願いする機会もあったんですが、家具の配置を変えやすかったり、新しいものが入って来た時にスタイリングしやすいように、できるだけ空間に支障がないようにしました。夫婦揃ってインテリア好きで、絶対に物が増えるのは明らかだったので」

 

また、3LDKだった間取りは、一室の壁を取り払い2LDKに。

「2人暮らしで、そんなに部屋数も必要ないので、リビングダイニングをズドーンと広く取れるようにしました。そのおかげで大きな家具を置いても、閉塞感がなくゾーニングもしっかりできて自由度が増しました」


手仕事の“揺らぎ”や“温もり” 時と文化を飾る民芸品の魅力

家を見渡すと色彩やデザインなど特徴豊かな民芸品の数々が目に飛び込んでくる。

 

横溝さんは、前職のBEAMSで展開していたレーベル「fennica(フェニカ)」を通して民芸品と出会った。日本国内をはじめ、北欧などから集められたハンドクラフトを中心に扱っていた同レーベルを通して民芸品の魅力に次第に惹きつけられていった

「現代とは全く違う質の高さや技術的に作れなくなっている点に惹かれますね。例えば、このルワンダのバスケットは当時、現地の人たちが自身で日常使いするために作られた物です。美意識の高さからか、手間のかかる民族的な柄も施されていて、綿密かつ繊細です。現在は商業目的で3000円程で売られていますが、とても簡素な作りになっているんです」

 

自身の生活の為に用いることを目的に作られた手仕事の民芸品と、現代の原価を下げるため大量生産される土産物的な物とでは質が全く異なる。

その上、当時の物は随所にこだわりや技巧が反映されたユニークなデザインが特徴だ。

 

時代の流れから失われていった文化的な背景や手仕事の暖かさ、名もない作者の作る匿名性など、ある種古着などに近い要素を持ち合わせるのもハマる理由なのかもしれない。

「古着も大好きなので、味わいだったり背景がある物をそばに置きたいなって漠然と思っていて。左右対象じゃなかったり、歪んでいたり、手仕事ゆえの“揺らぎ”に惹かれます。人の手で作られた物があると、部屋全体に優しい雰囲気をプラスできます。最近、海外だとフランスの家具にアフリカの民芸品など相対するもの同士を合わせるのも流行っているみたいですね」

 

近年、海外では若い世代もお手軽な値段のモノを上手く空間に取り入れたり、国毎の独自のエッセンスを感じるアイテム選びが流行しているそう。

文化的な背景も尊重しながら、希少性や価値だけに囚われずに自身の感性で惹かれた民芸品を集める横溝さん。

 

「洋服みたいにコレとコレを合わせるのはダメだというルールがないのと同様で。好きなものをごちゃごちゃに集めても、そこには共通した“好き”が見えてきます。その人らしいスタイリングは、“好き”を集積した上でできあがるのかなって」

溝口さんのコレクションとバタフライスツールのバランスの良いスタイリング


磨いた経験を家づくりに。お客目線で考えるスタイリング

アパレル業界で長く店舗のレイアウトやインテリアをディレクションしてきた横溝さん宅は、L字の2LDKをラグでゾーニング。

趣の違う家具や植物、民芸品が置かれており、それぞれ一つのエリアとして独立した雰囲気を出している。

 

「店舗の場合、お客さんがどう回遊して、どこを見るかを意識しながら商品を配置します。手に取ってもらわないといけないので目に触れやすい場所に置くのがセオリーですね。家具も同様で玄関から入ってきてまず目に入る物、部屋を出る時に印象に残る物など、どこから何がどう見えるのかに拘っています。VMDという仕事柄、自宅でも要所要所に強みや見所になるようなゾーニングを意識しています」

 

デザイナーや家具の書籍、SNSなどを参考にしながら植物や什器のレイアウトのイメージを膨らませたり、知識を蓄えたという。

自宅では、リビングスペースに低めのソファやテーブルを配置、ダイニングを仕切るように置かれた松本民芸家具のベンチの足下には、ヴィンテージのオマーサのレザーアニマルが並ぶ。

 

あえて他の家具より大きなウェグナーのダイニングテーブルの背の高さが、空間のバランスを上手く調和している。

ダイニングの水屋箪笥の食器棚を覗くと料理好きの夫婦ゆえの大量の食器が収納されている。

 

「食器1枚にしても好きな作家さんや窯元さんから購入していますね。インテリアとして使用する方もいると思うんですが、大前提、食器として使うかどうかを基準に考えています。化粧土で装飾されたスリップウェアのお皿を中心に、例えばこの大きさの魚を乗せるお皿がないなと思ったら、デザインを加味した上で相応のサイズ感の食器を選んでいます」

 

沖縄の焼き物のやちむん、栃木の益子焼などが並ぶ一方、シンプルな物が好みの奥様の趣味で集めた、パリにショップとアトリエを構える「アスティエ・ド・ヴィラット」の真っ白な陶器も入り混じる。

奥の部屋は横溝さんの趣味がさらに反映されたスペースに。

 

学校の備品だったという棚にはお気に入りの書籍が無数に並び、壁やフローリングに飾られた絵や古布などが部屋に彩りを添える。

ダイニング裏の壁際にはお店のように民芸品が飾られ、部屋に入らないと見えないようになっており、家全体の動線を意識したスタイリングになっている。

 

観葉植物も分散して配置するのではなく、高低差をつけつつ一箇所に固めてコーナー化するなど長年の経験が生かされている。

それぞれのアイテム群でアイキャッチな印象を作ることで、一つひとつを見て回れるように部屋をスタイリングしているのも店作りに関わってきた横溝さんならではだ。

コーナースペースにもショップのディスプレイのように民芸品が並ぶ


趣味が繋いだ縁。都会の喧騒から離れたスローライフ

月の半分を会社のアトリエがある北海道・美瑛町で過ごす2拠点生活を続ける横溝さん。

趣味の釣りや自然の中での仕事で、都会にはないゆったりした生活を楽しむ。

現在の勤務先とは釣りをきっかけに意気投合。

元々、BEAMS時代に取引先だったことと、退職するタイミングなどが重なり入社を決めた。

会社代表の趣味だという渓流釣りの為の拠点を作ろうと構えた美瑛町のアトリエで業務にあたりながら、丘や滝、渓流など自然に恵まれたこの地で趣味に没頭する生活を送っている。

 

趣味と仕事その両方をそれぞれの土地で楽しみながら生活する横溝さん。

 

「食材も豊かで野菜やお肉、果物もほとんど道産で揃うのも魅力ですよね。色んな産地の物が手に入る東京とは違い、地産地消で生産者の顔がリアルに見えるのも自然豊かなこの地だからこその強みですよね。時にはクライアントさんに料理を振る舞ったりテーブルを囲んで談笑したり、ゆっくりとした時間を過ごせています」

アトリエ近くの渓流


“飾らない”美しさを飾る。日々が溶け込む民芸品と自宅

以前も壁を塗り替えていて、今もウッドデッキを施行中だという横溝さん宅。

作り上げていく前提のリノベーションで、これから変わっていく余白をまだまだ残しているという。

「東京の自宅をこれからもっとアップデートしていきたいです。北海道では趣味を楽しみながら仕事をしつつ、東京では生活や自分の好きな物に没頭できる日々が理想ですね。長年の夢だった持ち家を手にしたので、これからは憧れを具現化していきたいですね」

 

それぞれの地域に根付いた技術や背景を映し出す民芸品は、これまで辿ってきた文化や経年した時間、人々の暮らしの中で用いるための道具として生まれた“用の美”を宿す。

そんな物本来の美しさを尊ぶ横溝さん。

 

住み始めてまだ数年だという自宅には、夫婦で過ごすこれからの日々を通して、人生の喜怒哀楽の瞬間や、かけがえのない時間が溶け込んでいくのだろう。



民芸品の“揺らぎ”が彩る、築50年のリノベーションハウス

STAFF
[Text] kohei kawai