一番その人らしさが表れる家の空間。“好き” が詰まった“場” には、ちょっとした工夫や色合わせなどこだわりが反映されているはず。
それぞれに違った個性を持つ自宅について話を聞いていく「イエの探求」。
今回伺ったのは新築マンションを購入後わずか10年足らずでリノベーションしたというゆずこさんのご自宅。
居心地の良さにこだわったリビングにはいつも人が集まっている。
人が集まる場所はどうやってつくられているのか、その秘密を見せてもらった。
大胆なオープンシェルフはリビングのアイコン
リビングにお邪魔すると圧倒的な存在感を放つオープンシェルフが目に入る。
一面すべてオープンな収納になっている造作の棚はゆずこさんのご自宅のシンボルのような存在。
真っ白な壁と幾何学的な曲線で導かれるアプローチの先に構える有機的なエネルギーが満ちたオープンシェルフ。
マンションをリノベーションする際にゆずこさんが絶対に叶えたかったものだという。
「これはマストでした。白金にあるYAECA HOME STOREというセレクトショップにこういう棚があって。それにずっと憧れがあったんです。
広島にある『さしものかぐたかはし』さんにオーダーしました」
書籍やアート、花器などゆずこさんがセレクトしたお気に入りのものが所狭しと詰まっている。
「ちょっと恥ずかしい部分もあるんですよ。今自分が好きなものがはいっているので、友達や初めましての人が遊びに来たりすると自分の中身を見られているみたいで。でも恥ずかしいなと思うけど、あまり隠しごとをしないタイプなので『まあいっか』とも思ってます」
にっこり笑ってそう話してくれた。
友人や知人が集ってたびたび家飲みをするというゆずこさん。
そんなオープンな人柄が表われた場所だから訪れる人も安心して過ごすことができるのだろう。
「居心地がいいとよく言ってもらえます。みんなリビングが大好きでゴロゴロして帰っていくんです」
リノベーションのきっかけは「丸いテーブル」
ゆずこさんが自邸をリノベーションしようと思い立ったのは、新築マンションを購入してわずか10年足らずの頃。
気に入って購入したはずのマンションをリノベーションした、その思い切った決断の発端は、「丸いダイニングテーブル」だった。
「丸いダイニングテーブルが欲しかったんです。子どもたちが少しずつ大きくなって、いつか思春期を迎えるときにもずっと顔を見てなんでも話ができる、そんな雰囲気のダイニングテーブルがあったらいいなと思ってオーダーしたのがきっかけです」
ところが、一生モノのダイニングテーブルを囲む家族を想像した時に感じたのは、そこはかとない違和感。テーブルのサイズ感や、リビングとの相性。具体的にイメージするほど違和感は強くなった。
「これはダイニングテーブルだけの話じゃないな。お家全体の話だなって思ったんです。そしたらもう『リフォームしたい!』となってしまって。ぶっ飛んでますよね(笑)」
確かに普通なら考えにくい発想には違いないが、居心地のよさを重視するゆずこさんの言葉には説得力がある。
「子どもたちもあっという間に巣立ってしまうし、彼らが家にいる間により居心地のいい家にしたかったんです。まだ住める家でしたが、『まだ住める』じゃなくて『ここに住みたい』と思える家じゃないとダメだって思ってしまったんです」
迷いのない想いで突き進んだ大胆なリノベーションだったが、リノベーションから2年経った今もまったく後悔していないという。躊躇なく手を伸ばした先にあったのは、思い描いた通りの理想の暮らしだった。
友人とキッチンカウンターを囲む贅沢な時間
食べるのも、飲むのも大好きと話すゆずこさんのキッチンもやはり居心地の良さを感じさせる場所になっている。
「みんなに手伝ってもらいたいからキッチンをⅡ型にして広くとって、カウンターは両方から手伝えるようにしてあります。リビング側に造作の収納を作ってもらったので『お皿そっちから好きなの出して~』と、みんなでわいわいやっています」
リビング側の広々としたワークトップは友人を招いた際にはテーブル代わりにもなり、飲食店のカウンターさながらだ。
また、ホットプレートを使った料理が好きなゆずこさんのこだわりで配置したGAGGENAUのIHコンロは専用の鉄板を置くことで大きなホットプレートのように使うことができるという優れモノ。
「ホットプレートが大好きで。でも出したりしまったりするのが億劫じゃないですか。じゃあ鉄板を埋め込みたいな、と思ったんですが見積もりを出してもらったらとんでもない金額で。調べているうちにGAGGENAUに行き着いたんです」
友人を招いてお好み焼きや餃子を焼いたりと楽しい時間に一役買ってくれる頼もしいアイテムだ。
一緒に作ったり食べたりお酒を飲んだり、気の置けない仲間と豊かな時間が流れていく。
「キッチンに居る時間って長いので、どうせ立つなら居心地のいいキッチンにしたくて。わがまま放題ですけどね」
また、キッチンのコーナーにはゆずこさんのワークスペースも。
フォトグラファーやライターとして活躍するゆずこさんにとって、自宅は仕事場でもある。コンパクトながらもクールな照明がワンポイントになる贅沢な空間だ。
料理をしたり仕事をしたりと、1日の多くをキッチンで過ごす。
器が教えてくれるひと手間の豊かさ
暮らしの真ん中にあるのは丸いダイニングテーブルと広々としたキッチン。そんなゆずこさんが大切にしているもののひとつが食器。
「食器が大好きです。食器を変えるだけで気分が全然違うので、例え買ってきたお料理でもお皿に盛りなおして食べたいんです」
お子さんが小さい頃からプラスチックのお皿は使わず、陶器や磁気のお皿を使っていたというゆずこさん。
割れることもあったと言うが、割れたとしてもそれも運命、優しく扱うことを知るきっかけになると切り替えた。
「いいものを買って使わずに大事に置いておいてぽっくり死んじゃったら『ああ!使っときゃよかった!』ってなるじゃないですか」
家同様、「今」を大切にするゆずこさんらしい考え方が格好いい。
食器はゆずこさんの食卓を彩る上で欠かせない相棒のようなもの。
疲れた1日の終わりだってお気に入りの食器に乗せれば、例え出来合いのお惣菜でも疲れを癒す一皿に変わる。
「ちゃんとお皿に盛るとか、ちゃんとトースターで温めるとか、ほんのひと手間で心の満ち方が違うというか。人生においてその頑張りってほんのちょっとだなと思っていて。そういうところは面倒くさがらないです」
些細なひと手間の中に隠れているのは暮らしの豊かさ。殺伐とした気持ちになるときこそ心を落ち着けて手を動かしたいもの。
ゆずこさんの暮らしから感じる満ち足りたエネルギーの正体はそんなささやかさの積み重ねなのかもしれない。
居心地のいいリビングをつくるもの選びのコツ
アートに花器に食器、それに書籍など、アンテナを広く張っているゆずこさん。
リビングのオープンシェルフには選りすぐりのアイテムが整然と並んでいる。
家族4人で暮らしていると物が雑多に溢れて、となりそうなもの。どんな工夫で空間の調和を保っているのだろう。
「もうある程度子どもたちが大きくなったので、私物は自分の部屋に置くようにしてもらっています。その代わり自室はお好きにどうぞという感じで。居心地の良さって目に入るもの全てが関係すると思うんです。だから雑多な物があるとどんなに素敵な空間でもちょっとざわざわする気がして」
お子さんの成長に伴ってリビングに置く私物が少なくなり、秩序が保たれるようになったのだとか。シェルフにもお子さん1人につきひとマスずつスペースを与えて、リビングで使うものはそのスペースに収まるようにしているそう。
さらに、もの選びにも「今」を大切にするゆずこさんらしい考え方が。
「長く愛せるかどうか、というのと、うちにある画(え)を想像できるか。どんなに素敵なデザインのものでも我が家にはそぐわないと思ったら買わない。あそこに置こうって想像できたら絶対に買う。という感じです」
それでもたまに用途が見えないものの、妙に惹かれるプロダクトに出逢うことがあるという。そして、そういったアイテムには必ず役目が訪れるのだとか。
「それを私は『宇宙』って呼んでます。巡り合わせというか。そういうことってあるんです」
いつかの「今」もきっと一番いい
実質2軒目の自宅購入のようなものだが、もしさらに家を建てるならどんな理想を描くのか尋ねてみた。
「今はマンションなので、もしも一軒家だったら庭が欲しかったですね。縁側があったらいいな。リノベーションするときに和室を取っ払ってしまったので、家を建てるなら和室は絶対に欲しいです。年齢を重ねるにしたがって和のフィーリングやリラックスの要素が欲しくなるような気がします」
友人とお茶を片手に談笑する姿が目に浮かぶ。
きっとゆずこさんの縁側も家族や友人が集う豊かな場所になるに違いない。
「あとはリノベーションの時にお風呂は手をつけなかったので、子どもたちが巣立ったら檜風呂にしたいな、とかサウナをつけたいな、とか話しています。自分の年齢や変化に応じていろいろ変えていってもいいのかもしれないですね」
ゆずこさんが見つめるのはいつだって「今」。
理想の家を手に入れた後も、今はずっと続いていく。いつかの「今」、自分が一番愛せる家をきっ
とまた叶えていくのだろう。
居心地のいい場所にいるのは居心地のいい家主。そんなことを教えてもらったような気がした。
2024.03.22
削ぎ落とした生活感と名作家具たち。狂気的インテリア愛が生む張り詰めた緊張感|イエの探求
2023.11.03
音楽創作に取り組み、心地よいリズムで暮らす家|イエの探求
2023.06.23
色鮮やかな家具と食を囲みながら、友人をあたたかく迎え入れる住まい | イエの探求
STAFF
[Text]
SAE HANE