一番その人らしさが現れる家の空間。“好き”が詰まった“場”には、ちょっとした工夫や色合わせのこだわりが反映されているはず。
そんなそれぞれ違った個性を持つ家の内装やインテリアについて話を聞いていく企画「イエの探求」。
今回は革細工職人のamuさんのご自宅へ。築50年以上の古き良き空気感を纏った空間には、ご自宅同様に時間を重ねた古道具や古家具が生活道具として並ぶ。そんな古きものに魅せられたきっかけや家族との生活、スタイリングのこだわりなどを聞いた。
田舎の原風景に溶け込む 四季折々を映し出す家
木々や田んぼなど自然に溢れた千葉県の北西部に家を構えるamuさん。
都内から電車で約1時間。駅を降りてすぐの、日差しが照らす田んぼ道は、初めて訪れる場所なのにどこか懐かしさを憶える。
遮る建物もなく、視界に真っ直ぐに飛び込んでくる一面の田園には、夏が近づき生き生きと色づいた稲穂が風に揺れ、誰しもの心の中にある田舎の原風景を思い出させる。
そんな風景と同様に暖かな空気を纏ったご自宅。
この物件にたどり着くまでには紆余曲折あったという。
「以前の物件は、物音に敏感な方が住まわれていて、隣人問題などで心労しきっていました。出産を機に、妻と私が生まれ育った千葉で子育てに集中できる場所を探しました。古いつくりですが、広い庭やキッチンのアーチ状の天窓などの独特の空気感が決めてです」
天窓は若葉の芽吹きや長くなった日の入り、赤や黄色に色づき、時折雪化粧に染まる木々など、季節の移り変わりを映し出してくれるという。
そんな、四季折々を感じるご自宅に暮らすamuさんの生活には、全国から収集した愛してやまない古家具や古道具が溶け込んでいる。
在りし日の誰かの思い出 今をつくった1着との出会い
「古道具にハマったのは、1着の古着と出会ったことがきっかけなんです。その古着のポケットにお菓子のパッケージの紙が残っていました。当時の物価で8粒10円みたいな記載もあって。それを発見した時に、前の持ち主の生活の一部をリアルに感じられたというか。確かに、誰かの人生を経て出会えたんだなって」
そこから古着に傾倒していき、日々骨董市やフリーマーケットに足繁く通うように。
amuさんは、イギリスをはじめとしたフランス、ドイツなど、専らユーロヴィンテージと呼ばれるものから、戦前戦後の日本の軍服や学校、鉄道会社などの制服などのジャパンヴィンテージなど幅広く収集。100年以上前に作られた古着も所有しており、その熱の高さが窺える。
そのどれもが一見した派手さよりも、当時の人々の生活に根付いた日常着ばかり。きっかけとなった1着の古着のように、誰かの生きた足跡を追従し、また後世にバトンを託していくのが古着や古道具、古家具の魅力と言える。
また、主にブランドから依頼を受けて、財布などの革小物制作を行う自室兼アトリエには作業道具として工業用ミシンも。これらも骨董市や古道具屋で見つけてきた物で、購入した古着のリペアなどもおこなっている。
使用する工業用ミシンも年代物ながら、現行の物と比べても大差ないほどまだまだ現役。
職人としてのこだわり、現代に求められる機能性をも数十年前に作られた古道具が実現している。
バンドマンから革細工職人へ どん底から這い上がり掴んだ幸せ
革細工職人としてキャリアをスタートしたのは、職人仕事としてはやや遅咲きにも思える30歳の時。
学生時代から音楽に夢中で、25歳頃から本格的にライブハウスなどで活動するように。
その後、営業職で企業に就職したが、精神的な負荷が大きく、過度のストレスで数年で離職。その後、暫くは社会から距離を置いて過ごしていたという。
当時を振り返りながら、人生の暗い期間だったと語る一方で、現在に至るまでの大きなターニングポイントともなった。
昔から音楽活動を通して、自身の手で何かを創造し、表現することが好きだったこともあり、考え抜いた末に選んだのが革細工職人の道。会社勤めの職人として一からキャリアをスタートさせた。
「辛い時期を経て、好きなことに没頭できること、それを仕事に生活していることの楽しさ、有り難さを感じながら過ごしていました。未経験で入った業界でしたが、苦労よりもそれらの感情に日々満たされて夢中で働いてましたね」
ある時、会社の事業縮小をきっかけに2020年に独立し、現在に至る。
現代的解釈で古道具に新しい価値を
古着にハマったことを皮切りに、いつしか身の回りの机や椅子などのインテリアや調理器具、仕事道具に至るまで“過去の記憶”を含んだ古家具や古道具を集めるようになっていく。
フリーマーケットや骨董市では、バイヤーや店同士の繋がりで良い物はどんどん買われていく。それゆえ、遠方の場合、深夜2時には自宅を出発し現地に向かう。
開店作業中のお店に声をかけて、商品を事前に吟味したり購入したりと古道具への強い愛が伝わる。
古道具はコレクション要素が強い一方、amuさんはインテリアとしてではなく実用性を重視している。
「もちろん用途を考えず直感的に惹かれてしまうことも多々あります。なるべく実用性を加味した上で、購入するようにしています。可能な限り実際に使って生活したいなって」
リビングを見渡すと偶然高さが揃った脚立やスツールを組み合わせてTV台として活用。さらには脚立の足場をラックに見立てて、ペットのカメちゃんのお家や小物起きスペースに。
本来、現行品やそれ用の物を古家具で買ってしまえばすぐに解決すること。
しかし、古道具を本来とは異なる視点で使用することで物の持っている以上の価値を見出すamuさんらしいスタイリングだ。
他にも、家族団欒の場でもあり、毎日の食事を過ごすダイニングテーブルは、風合いのある一枚板の古材に鉄脚を組み合わせた物。以前の所有者の生活で生まれた傷や経年のひび割れ、サビさえも物語を紡ぐ要素の一つだという。
また、あくまで賃貸物件ゆえ、壁周りのインテリアなどには雰囲気を壊さないように工夫しながら対策している。
ダイニングライトは、直接壁にネジを打ち込めない為、
木材を間に噛ませてフックで吊るしている。
木も他の家具の色味と合わせて、より自然な仕上がりに。
記憶にない思い出を辿る 懐古的キャンピングライフ
知人の誘いをきっかけにキャンプにハマったamuさん。
インテリアとして購入していたランプを持参したところ、現行の物と遜色なく使用できる上、環境も相まって懐古的で素敵な時間を過ごせたそう。
道具に刻まれた傷や歪みは、辿ってきた時間や前の所有者との物語を映し出す。そんな古道具を慈しみ、記憶にない思い出や風景を思いながら過ごすキャンプをノスタルジックなグランピング“ノスタルビング”と称して楽しんでいる。
「最近では自宅の庭にテントを張って、週末は子どもと一緒に過ごしています。大きくなったら自然の中で一緒に楽しめたらいいですね」
また、こういった場で用いる古道具にはセオリーがあるそう。
「基本的に持っていける荷物の量が限られていますよね。そんな時に持っていくのは折り畳めるアイテムとそれを収納する箱物系。箱は机として利用したり、数少ないアイテム数で雰囲気のあるグランピングをするなら、こういったところも見ながら古道具を選ぶとまた違った顔が見れますよね」
古民家との2拠点生活
「知り合いが築100年を超える古民家をゲストハウスとして運営していて。古着や古道具好きの自分としては、家にもそういった雰囲気を感じられたらなって憧れがあります。土間でご飯を作ったり、縁側でゆっくり時間を過ごせたら最高ですね」
古着に始まり身に纏う物から、日々の生活に使用する物、そして住う場所にまで時間の経過の魅力を追い求めるamuさん。
古民家を理想とする一方、現在のご自宅も家族で住むには理想の環境だと語る。
「このあたりの近隣住民は高齢者の方が多く、2人の子どもをとても可愛がってくれています。彼らの誕生日にはケーキをいただいたり、これまで住んできた環境にはない人との繋がりがあります。地域ぐるみで子育てしてくれているような安心感も感じます」
賃貸で住む現在のご自宅もいずれは購入も検討しているという。
「子ども達もせっかく出来たお友達とお別れするのも寂しいでしょうし、私たちにとっても子育てするのにこれ以上ない環境だと思っています。もし叶うのであれば、古民家は週末に家族でゆっくり時間を過ごす場所として使えたらなと」
没頭できる仕事と趣味、そして家族を愛し、日々を生きるamuさん。
amuさんの所有する古道具や古家具も、まだ見ぬどこかの誰かの元に渡る日が来るかもしれない。amuさんがかつて出会った思い出の古着のように、いずれは誰かの生き方や生活を変えることだろう。
そうして思いのバトンを繋いでいくことで、物は何代にも引き継がれて、人の営みとともに過去から現代へ、そして未来へと時を歩んでいく。
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STAFF
[Text]
kohei kawai