建築家の父がつくった場を継ぎ、自分らしく改装して暮らす|イエの探求 | UNSTANDARD(アンスタンダード)
2026.07.27

建築家の父がつくった場を継ぎ、自分らしく改装して暮らす|イエの探求

建築家の父がつくった場を継ぎ、自分らしく改装して暮らす|イエの探求

建築家の父がつくった場を継ぎ、自分らしく改装して暮らす|イエの探求

 

 

一番その人らしさが現れる家の空間。“好き”が詰まった“場”には、ちょっとした工夫や色合わせのこだわりが反映されているはず。そんなそれぞれ違った個性を持つ自宅の内装やインテリアについて話を聞いていく企画「イエの探求」。
神楽坂にあるビルのロフトに、ギャラリストの鈴木 歩さんは暮らす。
そこは住まいでも、事務所でもあり、そのふたつがじつに自然と共存するたおやかな空間だ。扉も仕切りもないワンルームが、いくつかのステップによって、分けるとも分けないともない。その空間づくりも気になるが、話は、まず家族のことから。なにせここをつくったのは、彼女の父だというのだから。

 


父がつくった空間に暮らす。

「ここは、父がデザインした空間なんです」

開口一番に彼女はそう告げて、どっしりと大きなダイニングテーブルに、おだやかに着いた。

父も祖父も、ともに建築家だったという。彼女も子ども時代から、仕事現場や海外出張に連れられたり、家に集まる建築関係の大人たちに囲まれたりし、かくしてごく自然と“その道”をこころざすかと思いきや、「ちょっとした反発心もあって」と、大学では美術を選んだ。

卒業してオランダへ留学すると、しだいに、自分自身が作品をつくるより展示や企画をするほうに興味がもたげ、日本に帰ってからはギャラリーを開くにいたった。いまでは作家のマネジメントや企画展のキュレーション、芸術祭のコーディネートなど、活動の幅は広い。

初めてこの部屋にやってきたのは、小学2年生の頃だったと振り返る彼女。秘密基地のようなワクワクをかすかに覚えていると、部屋を見回す。でも当時は、まさか、大人になった自分がここに暮らすことになるとは、とんと思わなかったという。


段差と奥行きをつかい、公私を混ぜ切らない。

そもそもここは、事務所兼住居としてデザインされた空間で、広々としたワンルームにロフトがそなわったこの場に、彼女も、住まうと働くを自然に掛け合わせる。

玄関を入ると大人数での打ち合わせもできる大きなダイニングテーブルがあり、周辺には仕事関連の道具や資料がラフにまとめられる。その奥は、大開口の窓とそこに沿ったベンチのあるリビング、そしてキッチン&バスルーム、そこから寝室としてのロフトに通じる。壁や扉はない。バスルームだってカーテンで仕切られているのみだが、玄関から奥に入れば入るほど、段差がついて高くなり、つれてプライバシーも増していく。

公私が混ざり合いながら、かといって混ざり切らない、理にかなったつくりだ。

この構造は、すべてが最初からあったわけではなく、そして彼女自身がしつらえたものでもない。

 

「ステップや窓際のベンチなどは、私の前に住んでいた方がつくったものなんです」と、以前の入居者がほどこした改装を引き継ぎながら、彼女が入居するタイミングで、そのままにしたところもあれば、取り払った部分も、さらにアレンジした部分もあるという。

たとえばキッチンカウンターは、彼女が入居する際に設置した。

 

「前の住人は、ここに大きくて長いダイニングテーブルを置いていました」

 

バスルームは、もともとホテルのユニットバスのようなタイプだったが、オーダーメイドの造作風呂につくり替えた。

紫色のカーペットが敷かれていた床にはグレーのタイルを敷き詰め、また、より事務所然としていた壁一面の収納棚も取っ払い、代わりにあたたかみある木棚をこしらえた。

「自分でここを改装するとき、なんとなく、父とコラボレートしているような感覚で、うれしかったですね」

 

住む者が、暮らしや必要に応じて付け足したり、つくり替えたり。そうした時間といとなみの跡が、このワンルームに積もり積もっている。


住まいなら“ジャンル”を越えられる

「ランプシェードやバスルームのカーテン、器やオブジェなど、この部屋にある作品やインテリアは、これまで私のギャラリーで展示してきた作家さんや、友人がつくったものがほとんどです」

この部屋の彼女らしさのあらわれは、そうした身近な他者にゆかりあるものたちにもよる。とはいえ、仕事で関わった展示作品をすべて住環境に詰め込むわけにもいかないし、ギャラリーと住まいとでは、きっと空間づくりの考え方も違うはず、と疑問がもたげる。

 

「展示したどの作品にも思い入れがあるので、困ります(笑) とはいえ、ここに置くのは住まいに相性のいいものが中心。たとえば絵画なら、植物のような気配や静かな生命感を感じられる作品、といったように」

「住まいならではだと感じるのは、“ジャンルを越えられる”こと。たとえば、“アート”と“アートじゃないもの”を一緒に並べても自然ですよね。自分の好きなグラフィックデザイナーのつくったファブリックで、クッションなどの生活必需品を自分でつくる、とかも」

 

部屋に飾らないものは、作品用の倉庫に保管してあって、たまに入れ替えたりしながら気分転換しているのだとか。


ロフトのある、小さな一軒家が理想。

彼女がいちばんお気に入りの場所は、寝室のあるロフト。天井は山小屋のような三角屋根になっているため、“おこもり感”もひとしおで、壁に掛けられた「カッコー時計」もシンデレラフィットだ。

「いつかは一軒家に住みたい」と話す彼女だが、そんな理想にも、ロフトが欠かせないという。

 

「小さくて可愛い家がいいですね。WOODBOXシリーズの「BUNGALOW」は、まさにそんなイメージが湧きます」。

 

BUNGALOWは勾配天井をもつ平屋構造で、LDKと3部屋、そしてロフトをそなえている。

WOODBOXシリーズ“BUNGALOW”

「部屋がたっぷりあるので、寝室はそのうちどれかを使うとして。ロフトは、猫ちゃんを飼って遊び場にしてあげたいですね。登ったり降りたりできるのも、ロフトならではの狭さにもよろこびそう」

 

「リビングが中心になっているのもいいですね」と、間取りにも注目する彼女。

 

「各部屋がリビングから直接通じているので、家族みんなが集まりやすいでしょうね」。

いまは倉庫にストックしてある作品も、この家なら、暮らしに結びつきやすそうだと、彼女ならではの視点も覗かせる。

 

「このあたたかみある内装や、壁面の多さは、絵や写真なども飾りやすいと思う。大好きな作品たちの居場所も、ここならたくさん見つけてあげられそうです」

建築家の父がつくった場を継ぎ、自分らしく改装して暮らす|イエの探求

STAFF
[Text]

MASAHIRO KOSAKA(CORNELL)