こだわりのお店にお邪魔して空間づくりの背景を伺う「訪ねて紐解く、空間づくりのヒント帖」。
細部にまでこだわった空間には家づくりのヒントが隠されているかも。
今回お話を伺ったのは、名古屋市でカフェ「groove coffee」を営む秋山 亮介さん。
渋さとポップを掛け合わせた、オリジナルコンセプト「渋ポップ」をテーマに、「おいしい」空間をつくりあげている。落ち着きの中に遊び心を溶け込ませた空間は、何度も訪れたくなる居心地のいい場所。
設計・施工は秋山さんの自宅も手がけた、名古屋の設計事務所、HOWL STUDIOS。
タイで出会ったカフェの愉しみを名古屋で
名古屋市の一角、ビルの谷間にあるガラス張りの店内には暖かな光がたっぷりと満ちている。
店主の秋山亮介さんが営む groove coffee はアースカラーを基調とした落ち着きのあるカフェ。会社員時代、駐在経験の中でコーヒーの世界に興味を持ったという。
「駐在先がタイだったんですが、タイはコーヒー文化がけっこう盛んで。いろんなお店を巡るうちにたくさんインスピレーションを受けました」
店内のテーブルには秋山さんがタイで購入した花器や小物が。当時を振り返る懐かしいアイテムはすっきりとまとまった空間のアクセントになる。
開放的なカウンターが主流の日本では珍しい、垂れ壁のあるロの字型のカウンターも、海外暮らしで得たインスピレーションから。
「名古屋ではあまりこういったカフェを見かけなかったので差別化という意味と、一目でわかるインパクトが欲しくてこのようなデザインにしてみました」
あえて開放感を手放し、空間を潔く遮ることで店主と客の距離感を緩やかに保っている。
コンパクトな店内だからこそ、客とスタッフの心地よい距離感を意識したい。
また、カウンターの垂れ壁には店のロゴをあしらったライトが。
「屋外とかにあるようなライトですが、店内にあっても面白いかな、と思って飾っています。写真を撮られていくお客様も多くいらっしゃいます」
落ち着いた空間に差し込まれた遊び心は、訪れる人の記憶に小さな立体感を残す。体験を誘導する仕組みは秋山さんのサービス精神の表れだろう。
落ち着きと遊び心を繋ぐ、「渋ポップ」という考えかた
「個人的に言っている『渋い』と『ポップ』って相反するテイストなんですが、渋いとポップをうまく掛け合わせればな、と」
見渡すと、シンプルな窓辺のカウンターの足元にあしらった丸い穴、ダークグリーンのタイルが印象的なベンチシートに配された丸いテーブル、ダークカラーのモルタルの床とペーパーコードの椅子など、落ち着きのあるテイストにそれをやわらげる要素がさりげなく添えられている。
「自分の年齢を考えるとポップすぎるのは合わないし、でも渋すぎるのも違う。だから、バランスを取っています」
渋ポップとは今の秋山さんの等身大の姿でもある。
ペーパーコードの椅子はカウンターを増設した際にシルバーの分量が増えることを懸念し、買いなおしたもの。以前はセンターの席にはシルバーのチェアがあったのだとか。
渋さだけでは重くなり、ポップだけでは軽くなる。その間の “心地よさ” を探る作業こそが秋山さんの空間づくりなのかもしれない。
五感でつくる空間設計
暖かな光が差し込み、センスのいい音楽が流れる groove coffee の店内。
前述した、渋ポップが与える心地よい緩急が重なり、ここにしかない空間を形づくっている。
「味はもちろんなんですが、視覚の情報とか、匂いとか、耳で感じる雰囲気とか、いろんなものを総合して『おいしかった』とか『楽しかった』につながると思っていて」
食事の時間を構成するあらゆる要素を丁寧に整えることで、「おいしい」はより複合的な体験になると秋山さんは考える。
細部にまでこだわった空間はもちろん「おいしい」のエッセンスのひとつ。
「天井にはほんとうは目透かし(溝のようなもの)を入れたかったんですが予算的に難しいとなって…。デザイナーさん達と話を重ねる中で、本来の目透かしの役目である溝を、木材を段違いに貼ることで出来る影によって演出できるかも、と採用事例はない中でチャレンジしてみることにしました」
段差が生まれたことで材と材の間に影ができ、天候や時間によって異なる表情が顔を出す。
意識されにくい部分にも妥協のない思いを巡らせる。そんな視線が空間をより磨きあげているのだろう。
「味だけを重視するのではなく、味とお店の雰囲気を意識して空間をつくりこんでいきました」
たっぷりと釉薬が垂れる、こだわりのカップ
おいしさを空間全体で表現する秋山さん。そのこだわりがよく表れている要素のひとつが、カフェラテ用のカップだ。
Instagramの投稿の中でも注目を集める、存在感のあるカップは有田焼の作家、照井壮さんの作品。
「ラテアートの練習過程をSNSにアップしていく中でカップにも興味が湧くようになり、その中で出会ったのが照井さんの『ナガレルイロ』というシリーズだったんです」
カップの側面を愛嬌たっぷりに釉薬が彩るデザインに秋山さんはひとめぼれ。
個展や出店でしか販売されてなかったため、長野県松本市まで足を運び、既存のフリーカップを購入した。
「その後、ラテを淹れたいのでもうひと回り大きいものをつくってもらえませんか、とダメもとでお願いしました。普段はオリジナルの製作を受け付けていないそうですが、思いが伝わったのか、なんとか実現していただくことができました」
香り高いコーヒーと表情豊かな釉薬が合わさることで、五感を刺激する唯一無二の一杯になる。
客の多くはこのラテを求めて訪れるという。
エキゾチックなコーヒーが空間にスパイスを添える
groove coffee で提供されるオリジナルブレンドは中国の雲南省のもの。
ピーチのようなフルーティーな香りと紅茶のようなさわやかさ、後味に感じるしっかりとしたコーヒーの風味が、新鮮なインパクトを与える。
「初めて飲んだ方には結構驚かれるんですよ。僕も初めて飲んだときはびっくりしました」
オリジナルブレンドにはこの個性的な雲南省の浅煎りの豆を、「本日のコーヒー」には苦みを感じる深煎りの豆を使っているという。
相反するテイストを共存させる秋山さんのバランス感覚はコーヒーにも表れているようだ。
北欧家具に代表されるペーパーコードのチェアと、和紙の照明やアジアンテイストの小物。
さらには、自身の物静かな佇まいをやわらげるような、明るい印象のアルバイトを迎えるなど、そのバランス感覚は随所に息づいている。
全体を俯瞰し、テイストを削ぐのではなく対照的なエッセンスを差し込むことで調和を図っている。
渋ポップな空間と呼応する香り豊かなコーヒーは、groove coffee を象徴する要素のひとつかもしれない。
一人ひとり、それぞれ異なるgrooveな体験
空間の心地よさは「おいしい」の重要なエッセンスのひとつ、という想いを持つ秋山さん。
落ち着きと遊び心をバランスよく溶け込ませ、居心地のいい空間づくりを意識する。
こだわりを磨き上げる中、訪れる人にどんな時間を提供したいと考えているのだろう。
「実は、特にないんですよね。それは僕の意志がないという意味ではなくて、カフェって訪れる目的がそれぞれ違うと思うんです。友達とおしゃべりしたい人、作業したい人、純粋にコーヒーを愉しみたい人。それぞれが、『なんかここよかったね』と思ってくれたらそれで十分」
秋山さんにとって、おいしさを追求することは空間に妥協をしないということと同義だ。
一見相反するように見えるテイストの融合という、常に一貫したテーマを軸に築き上げられている。
まさに、空間そのものが複雑な香りを纏った一杯のコーヒーのようだ。
幾重にも折り重なる香りに包まれて感じる心地よさは、きっとここでしか感じることができないもの。
「ここで、それぞれの過ごし方、それぞれの groove (ノリ・高揚感)をみつけてくれたら嬉しいですね」
名古屋の街角に佇む小さなコーヒーショップから放たれる groove に、今日も多くの人が引き寄せられている。

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