一番その人らしさが現れる家の空間。“好き”が詰まった“場”には、ちょっとした工夫や色合わせのこだわりが反映されているはず。
そんなそれぞれ違った個性を持つ家の内装やインテリアについて話を聞いていく企画「イエの探求」。
今回はハンドメイドのジュエリーデザイナーとして活動するEmilyさんのご自宅へ。
大きな窓から逗子の海を一望できる住まいに家族4人で暮らす彼女。
培われた独自の視点で選ぶ、ポップなデザインの小物やヴィンテージ家具、リサイクルショップ、フリマアプリで見つけるグッドプライスなアイテムなどを織り交ぜたスタイリングはかなりユニーク。
センスに裏付けされたモノ選びのこだわりや都心から引越した逗子での生活や子育て、自身のブランドについて話を伺った。
ハワイでの生活。30歳未経験が始めたブランドは好スタート
東京で美容師とTVとCMを中心にモデルとして活動していたEmilyさん。
美容師を退職し、モデル業に絞ったその後、5年ほどハワイで生活。
「日本でまだハンドメイドジュエリーが流行る前でしたが、ハワイでは一般的で。見よう見まねで作ってみたところ、友人の働くセレクトショップで取り扱ってくれることになったんです」
ハワイで迎えた30歳の節目に開始したブランド『EMILY/BLUE』はセレクトショップで働く友人の後ろ盾も手伝って、あっという間にハワイを中心にセレクトショップ6店舗に卸すことに。
現在はインフルエンサーとしても活躍するEmilyさんも、当時はSNSには全く関心がなかったそう。
感覚で製作するというジュエリーは、誰かに作り方を教わったり本などで学んだりすることもなく全くの独学。
「最初はお店で見た商品を真似してみようと思ったのがきっかけです。いざやってみたら思いのほか上手くできちゃって(笑)。
作れば作るほど表現できるデザインの幅も増えていって、現在のようにイヤリングやブレスレットまで様々な形の作品を展開できるようになりましたね」
穏やかに過ぎる日々と窓から眺める自分だけの海
都内に住んでいた時は全くと言っていいほど海に接点はなかったが、ハワイの自然に触れ、海や空を連想するブルーと自身の名前をブランド名に込めた『EMILY/BLUE』
「ブルーは時に、『憂鬱』だったり『気が滅入る』だったりネガティブな感情を意味します。でも私の大好きな海や空の美しさを表現したり、結婚式でもサムシングブルーと言われるほど縁起のいい色でもあります」
ハワイから帰国後、今の旦那さんと結婚。
逗子に移住するまではファミリー層が多く住む都心のエリアに住んでいたという。
「以前に住んでいた家は景色がそんなに良いものではなくて。
今は、子どもがまだ小さくて一日中家にいる日も少なくないです。
また、ジュエリーの製作も自宅で行っていたり、インフルエンサーのお仕事も自宅でしたりすることが多いので、次引っ越すなら気持ちよく生活できるところがいいなってずっと考えていました」
逗子は海と山に囲まれた自然豊かでありながら都会的なカルチャーも同居する土地。
始発列車も多く設定されており、都心にも1時間弱で移動できたりと観光地としての人気だけでなく、交通の面でも非常に利便性が高い。
「移動中はNetflixを観たり仕事のメールを返したりして過ごしています。家では家事、育児と製作で中々自分の時間が取れないので、少し長めの移動は全く苦痛じゃないですね」
自身でブランドを運営しながら、2人のお子さんを育てる母親としての顔も持つEmilyさん。三方に山が並び、家の目の前には逗子の海岸が広がる文字通り自然に囲まれた生活は、都心で暮らしていた時とどんな変化を生んでいるのだろうか。
「以前よりマイナスの感情を抱くことが減りましたね。
移動時間の関係もありますけど、朝の時間がゆっくり取れるようになったので、海を眺めながらコーヒーを飲んだり、子どもの登園の前に一緒に砂浜を散歩したり。精神的に穏やかなのはやっぱり自然のおかげですね」
今のブランドを始めた理由の一つは、お子さんが生まれて、限られた時間の中でも自分の好きなことをしたいという思いから。
今こうして海を眺め、波の音を聴きながら自分の好きな仕事に没頭できる環境を手にした30代は、これまで以上に自身の感覚に正直に人生を生きている。
リサイクル品もヴィンテージも巡り合わせ。垣根を超えた家具選び
窓から海が一望できるEmilyさんの家は玄関に比べてリビングの天井が高く、親子扉を開けると真っ直ぐに海が視界に広がることで、実際よりも距離が近くに感じられる。
以前の家は、お子さんが生まれてインテリアもデザインより、安全面や素材に気をつけたり、配置にも注意を払っていたというEmilyさん。お子さんの成長と逗子に引っ越すタイミングが重なり、幼少期の父親の影響や自身の経験を通して、独特なセンスを遺憾無く発揮し、Instagramでもフォロワーから支持を集めている。
「父親がジャズドラマーで、職業柄か感性が独特でした。実家のインテリアは花柄のド派手なカーテンや筆記体のネオンライトなどちょっと奇抜で。父の私服も紫に赤のパンツを合わせたり当時の父親と同年代の男性とは全然違うというか。派手な色を組み合わせているのにまとまりが良かったり、今思うと少し海外っぽい印象でしたね」
リーンロゼのシックなソファの上に、無作為に置かれたポップな色使いのイスやクッションなどが目に入る一方で、自然に調和するシルバーのライトは祐天寺のヴィンテージ・インテリアショップ『SEIN』で購入したもの。
「60’sのイタリアの物です。何度も通っていたのに店内にあることに気付いていなくて。巡り合わせなんでしょうね。探していたタイミングでパッと視界に入ってきてくれました」
普段はPinterestやInstagramで海外のインテリアを参考にしながら、『SEIN』のほか『stoop』『WANT ANTIQUE』など都内を中心にヴィンテージ家具をチェックするほか、関東近郊で多数店舗を展開する『NEWS』などでリサイクル品との一期一会を楽しんでいる。
カオスの中に見える秩序。スタイリングの無意識なマイルール
Emilyさんの家のインテリアは好きな物を無秩序に集めたカオスさを感じ、一点一点に良い意味で違和感を感じさせるアイテムやデザインが際立つ。その一方で全体を眺めるとEmilyさんのインテリアのスタイリングには本人も無意識的に定めたルールが隠れている。
リビングのアイテムを見ていくと、明るい色だったりポップなデザインのモノが目に入ってくるが、それぞれが主張し合うわけではなく全体にまとまりがある。
「全て感覚で選んでいるので中々言語化するのが難しくて。ただただポップにしたいわけではないので、例えばあえてここを和っぽい雰囲気にしたら面白いかなとか、ここにはこういう色があったほうが楽しいかなとか。今の色彩感覚は恐らく、独特の感性だった父の影響もあると思います」
ピンクや紫、グリーンなどのアイテムも色調自体は暗く質感もマットな物がほとんどで、その隙間を埋めるように黒やシルバーなどのインテリアが部屋にメリハリをつけていて、ただ“可愛いだけ” “カッコ良いだけ”の色使いやアイテム選びではないEmilyさん独自の目線と感覚が視覚化され、かなりユニークかつ繊細なバランス感で成り立っている。
とにかく好きな物だけを集めながらもそれぞれが色を拾い、合わせることで互いを強調し、補う。
全てのモノがお互いに影響し合って、部屋はクラシックでありモダン、ポップかつシックなジャンルレスでありながら統一された雰囲気だ。
Emilyさんのスタイリングはヴィンテージとモダンなアイテム、カラフルとモノトーンな色調のほか質感や素材に至るまで相反するモノが絶妙な塩梅で共存し合っている。
木製の優しい雰囲気のサイドボードもあれば、無機質なクリア素材の椅子もあり、同調しないアイテムを敢えて近くに置くことで室内をデザインしている。
小物も『イサムノグチ』のライトとともに置かれた木彫りの熊で和なイメージを演出しているかと思えば、その横にはパステルカラーのキャンドル立てが置かれるなど、そのモノのイメージや印象も、空間づくりの一素材として生きている。
「イエローやグリーンなど使われている色だけ見ると可愛い印象を受けると思うんですけど、ヴィンテージも織り交ぜることでその可愛さも差し色的な役割にもなりますし、逆もまた然りで。素材も有機的な素材と無機質なモノ、ずっと憧れていたインテリアにワンコインで買ったようなお値打ちな置物を合わせて見たり。概念的にも面白いですよね」
今回、Emiliyさんの話を伺い、誰かの真似をするのではなく、アレが欲しいコレも欲しいと無邪気に家具を選ぶこと、何かを参考にせず自分の感性と“好き”を信じてみることがオリジナルのスタイリングの近道なのかもしれない。
一つひとつのアイテムが互いに共鳴し、“好き”が象られていく。
理想の住まいはシンパシーを感じるそんな暮らしから始まるのかもしれない。
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STAFF
[Text]
kohei kawai