自然の光と影を活かしたリノベーション戸建て住宅での暮らし | UNSTANDARD(アンスタンダード)
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2023.08.23

自然の光と影を活かしたリノベーション戸建て住宅での暮らし

自然の光と影を活かしたリノベーション戸建て住宅での暮らし

自然の光と影を活かしたリノベーション戸建て住宅での暮らし

 

家を通して暮らしを楽しむ人の、暮らしのアイデアや家づくりにまつわる情報を発信。家とライフスタイルの関係性を探り、“好き”が詰まった住まい方を紹介します。

 

今回は、窓から海が一望できる戸建てに家族4人で暮らす、スタイリスト宇藤えみさんの住まいにお邪魔しました。コロナ禍と第二子出産を機に、東京での戸建て賃貸暮らしから逗子の一軒家へと引っ越し。

便利な東京とは真逆のライフスタイルでも、満足する家づくりが出来たコツを聞きました。


子育てをきっかけに東京から拠点を逗子へ

東京を拠点に活動していた宇藤さん。急に郊外の生活に憧れたわけではなく、山と海に囲まれた生まれ故郷での体験がどこか頭の片隅にあったのだという。

そうした背景から宇藤さんにとっては、出産後に子どもたちと自然の中で過ごすイメージが想像しやすかったが、引越しに至るまではマンション派の旦那さんとの話し合いが要だったそう。

 

「郊外の戸建てだと、都内とは違い、日常生活から移動まで不便になることが懸念点になりました。
でも、コロナ禍のおかげで主人の仕事スタイルが変わったことと、主人自身が「子育てするには戸建てがいいね」という考えになってきたこともあり、郊外の戸建てに住んでみようかということになって。

いまも駐車場がなかったり、コンビニが近くにないことから、主人が不便だと感じる部分はあるんですけどね(笑)」

 

アクセシビリティが完備された東京とは180度違う暮らし。

土地探しから家の設計まですべてが初めての体験だったのにも関わらず、トントン拍子で後悔のない家づくりができたのは、旦那さんの幼馴染である建築家とフラットなコミュニケーションができたからだという。

 

「まず土地探しの時点で、1回目に気に入った土地とのご縁が急になくなってしまったのですが、その後3ヵ月程でいまの土地との巡り合いがあったんです。わたしも主人も両方が納得する場所にこんなにも早く出会えるとは思ってもみなくて。

そこから、主人の幼馴染である建築家の方に相談したら『何も条件を考えずに、まずはやりたいこと全てを僕に伝えてください』と言ってもらえて。彼の前向きな考え方を起点に、予算の中で最大限の可能性を最後まで探り出せました」


「光と影」をテーマにした家づくり

そうした予算を制限だと思わずに、可能なことを見つけていった先に第一の優先事項としてあがったのが家に差し込む「光と影」。

大きな窓から差し込む西日が印象的な天高のリビングからは想像もつかないが、もともと室内は暗い設計だったそう。

外の自然を感じられない閉塞的な空間に、東西南北すべての角度から光と影を入れることで開放感をもたらした。

「もとの設計通りだと西日は入ってきても、日中に自然光が差し込むことがなくて。

ちょっとした木洩れ日や、植物が揺れる影から家の周りにある自然を感じられないかなと思ったんです。

光と言ったら南方向を考えますが、実は北から差し込む光は日没に関係なく、安定しているのでキッチンの上に窓をつけました。

玄関上の天井近くにある窓も、わざわざ天高にして設置したんです。だからその隣にあるボックス上の壁は、収納スペースというわけではなく、単純に天高にするために付け加えた場所。

そのくらい、家づくりにおいて光と影を感じる開放感は大切でした」

 

光と言ったら南方向を中心に間取りを考えがちだが、全方向の自然光を活かす設計は新しい。

リビングの全開口のスライドドアを開けると、逗子の海が一望できるバルコニーへ。

より自然と一体感を感じられる空間設計になっている。

 

キッチン上部の窓

玄関上の天井近くにある窓


インテリアには和と北欧のムードをミックス

自然光に頼らずに、家の照明も室内のムードを演出する重要な役割。リビングを飾るのは、イサム・ノグチによる「AKARI」。引っ越すタイミングでこの照明を軸に、ダイニングテーブル以外のリビングの家具を買い揃えていった。

ダイニングチェアも念願のカール・ハンセン&サンで統一。ムードとしては、「AKARI」が持つ和のテイストに北欧の雰囲気をミックスしたそう。

 

「もともと20代から建築家前川國男邸の空間が好きだったことが、もしかしたら影響しているのかもしれないです」

 

たしかに、モダニズムの旗手とも言われた前川國男の自邸にも二層吹き抜けによる天高なリビング​が構えられている。

天井から吊り下げられたイサム・ノグチの照明に、障子​​や地袋などモダンなデザインの中にも和の要素が取り入れられている。

またスタイリストという職業柄、普段からアンテナを張っているという食器の数々も「和」を感じるものばかりだ。

 

「一般的食器棚の作りだと、奥のものが取り出せず、手前のものだけで使うものが限られてしまいますよね。この棚では二段構造にすることでいつでも使いたいものを簡単に取れるようにしています。

キッチンカウンターの外にも収納棚を設置して、そこにはワイングラスなど友人を招いたホームパーティーで自由に取り出せるようにしているんです」

リビングの全開口の窓と同じく、ここでもコンロ横の四角い窓から、海の景色が見える。

リビングとは異なり、まるで額縁から景色を覗くような情緒的な作りも工夫したという。

 


天高と風通しを考えた開放的な空間に

玄関近くの階段を下がった1Fには、寝室、子ども部屋、お風呂場、ゲストルーム、収納スペースが横一列に並ぶ。

全部屋が壁で仕切られているにも関わらず、海風によって風通しが気持ちいい。空間全体的にも自然光を反射しないような白壁に包まれる。

この風通しの良さと壁による開放感もまた、工夫したポイントなんだとか。

 

「このフロアも引っ越してきた当時は、暗くて風通しが悪い閉塞的な空間でした。建築家の方と相談してすべての部屋に窓をつけるほかにも、踊り場にも小窓を開けて。

そうしたちょっとした場所にも窓があることで、随分風通しが変わりましたね。

壁にはグレーを少し混ぜた白色を使うことで、落ち着いた明るさを意識しています。

ドアの高さも天井と同じにすることで、視覚からもより気持ちよさを体感できるように工夫しました」

 

細部にも凝らされている空間を明るく見せるためのひと工夫。

洗面台もやわらかい暖色で照らすことで開放感に加えて、リラックスな雰囲気もつくりだす。

キッチンと同じく、洗面台の下にもちょうどいい奥行きの収納スペースを設置。

寝室の枕元にある棚も同じようにストックスペースとして使っているのかと尋ねると意外な答えが返ってきた。

「柱を抜くことができないことから、ベッドを置いたときのデッドスペースにこの棚を置きました。

でも中は空洞なんです。たとえ収納棚を作ってもベッドを出してまで取り出すことってあるのかなと思って、いさぎよく枕元に置きたい携帯や時計などを置くスペースとして活用しています」

 

設計上の不便も、ライフスタイルに合わせて柔軟に変えてしまうアイデアがおもしろい。


満足できた等身大の家づくり

自分らしい家づくりのコツとは、生活を考えた空間の使い方と小さな工夫を活かすこと。

そんな多くの選択肢がある中で、自分ならではの“好き”を取捨選択する方法を聞いてみた。

 

「とにかく最初はやりたいことをバーっと書き出していって。そこから優先順位を決めていくと、おのずと予算の優先順位も決まっていきました。

たとえば私たちは最終的にキッチンと大開口にこだわりを持っていたのですが、その優先順位を念頭に置くことで削るポイントも早くクリアになりました。

あれもこれもやりたいとなると予算も時間も膨らむ一方ですが、メリハリをつけると現実的な着地点が目指せたように感じます。そのおかげで、今の等身大の家づくりに満足できています」

まっさらなところから自分の好きを探求する家づくりのプロセスは、楽しいことでもある一方で、一歩踏み外すと一体なにが好きなのか見失ってしまうこともある。

そんな選択肢が無限に広がる家づくりのコツをまさに凝縮した空間だったように感じた。

NONDESIGN

STAFF
[Text] YOSHIKO KURATA