一番その人らしさが現れる家の空間。“好き”が詰まった“場”には、ちょっとした工夫や色合わせのこだわりが反映されているはず。そんなそれぞれ違った個性を持つ自宅の内装やインテリアについて話を聞いていく企画「イエの探求」。
今回は、植物や花に囲まれて暮らすフローリストのShintaro Oyaさんのご自宅へ。家の中にいても、気分を上げさせてくれる自然光と花の大切さについて語っていただきました。
一目惚れで決めたユニークな間取り
駅から少し歩いたところに位置するOyaさんのご自宅。一見普通のマンションに見えるけれど、ドアを開くと三面の窓から日光が入るユニークな間取りの部屋が広がる。部屋との出会いは、不思議な縁から。
「この部屋を見に来たわけではなくて、同じ物件の一番下の普通の部屋を見に来たんです。特に決め手になるものもなく、別の内見を始めようか考えていたら、この部屋も案内してくださって。変な形をした部屋にビビッときて即決しました」
即決から決まったこの部屋も引っ越し当初とは、様変わりしているという。床と壁にDIYすることで、部屋の奥行きの印象を変えた。
「引っ越し前日の家具を入れる前に、まず床を張り替えましたね。壁紙は最初白一色だったのですが、半年経ってからベッド近くの斜めの天井をもう少し立体的に出来ないかと思って、貼っても剥がれるタイプの壁紙でアースカラーの赤茶色を追加しました」
ワンフロアの中でのスタイリング術
部屋を見渡すと生活用品による雑多な生活感は感じられず、シンプルかつ花の生き生きとした色彩が散りばめられている。ワンフロアだと色や素材すべてがフラットに見える中で、一体どのように部屋のスタイリングに統一感を持たせているのだろうか?
「無彩色を意識して、あまり家具で色を増やさないようにしています。部屋に飾っているポスターは、その時々の気分に合わせて色や配置を入れ替えていて、今は青色の気分。額縁の選び方もそれぞれ違うんですけど、気分に合いそうな色と素材を買ってから場所やバランスを考え始めます。額縁選びは一見むずかしそうに思いますが、気分で買うとしっくりくることが多くて。例えば、ライターを持っている写真作品は白の額縁だと無機質な印象になるところを木目調の額縁にすることで部屋全体のアースカラーに馴染みながらも、作品の印象も温もりがあるものになりました」
自分の気分にあわせたインテリアに模様替えすることで、自然と気分転換になる。そうした自分の好きなものに囲まれた部屋作りを支えるのが、収納術。至るところにOyaさんの工夫がされている。
「まず冷蔵庫の存在をうまく消したくて、DIYで木材の囲いを作りました。そうすることで冷蔵庫と配線が隠れてシンプルかつ生活感が出なくなって。同じく、キッチン下の電子レンジも囲うことで、収納スペースが増えて一石二鳥の使い方ができました。ほかにも目立つものとして、調味料のパッケージを消せないかと思ってすべてパッケージから取り出して瓶の中に入れ替えて、見える状態でワゴンに乗せています。同じく食器類も見える状態で置けるように、冷蔵庫の上とキッチン下で色分けをして統一感を持たせていますね」
キッチンの照明はもともと付いていたものを活かしつつ、右手の調理器具を吊り下げるスペースは取り付けてあった別の棚をなくして、新たな機能性へと改造。左手のマグネット式で小物調理器具を貼り付けているスペースも外付けの棚が置いてあったそうだが、こちらも取り外すことでキッチンだけではなく、玄関にもスペースが生まれた。
「キッチン用品以外のスキンケアやドライヤーなどの生活用品は壁沿いにある棚にすべて収納しています。実はベッド下にも収納スペースがあって、もともと引き出し上に区切られていた形状を全て取り払うことで、衣装ケースや書籍などを自由に置けるストックスペースを作ることができました」
ここまで部屋の隅々までデザインと収納を綺麗に両立することは、忙しい毎日の中で大変ではないのだろうか?
「几帳面だからではなく、モノの住所が決まってないとすぐ忘れちゃうことから始めました。すべて収納スペースとモノが紐づいていることで、生活しやすくなったので続けられていますね」
花がある生活はメンタルケアにつながる
そうした収納スペースの上で、部屋に彩りを飾るのが多種多様な植物と花たち。3年前に花屋に転職するきっかけは、花を飾った時に気分が高揚したパーソナル体験からだという。
「以前はバーで働いていたこともあって、昼夜逆転の生活を送っていたんです。自然光を浴びずに生活し続けたら、メンタルが不調になった時があって。そのタイミングで花を部屋に飾ってみたら、疲れが一気に癒されたんですよね。その自分の体験から、20代後半に差し掛かる年齢だったこともあり、思い切って未経験でしたが花の業界に飛び込みました」
といっても花屋もお花のイメージと打って変わって、朝が早く水仕事が多くハードワークな業務ではある。もともと夜行性だというOyaさんの起床をサポートしてくれるのが、まさにこの部屋の特徴である3面の窓から入る朝日なんだとか。
「朝7時に起きて、9時には店舗で仕事をスタートしています。なかなか早起きが苦手だったのですが、この家に住み始めてから自然と朝日が入るので起き上がれますね。そこから夜の9〜10時まで働いて11時には帰宅。その時間帯に帰宅するので、ご飯は昼に2食分食べて夜は蒸し野菜などを軽く食べるだけにしてます。お酒も好きなので、たまに自分でお酒も作ってご飯と一緒に嗜んだり。オフの時は、夜まで起きて昼に起きる生活ですが、日中でも光が入るので気分転換にご飯を作ったり、家で過ごすことも楽しくなりました」
花と花瓶の相性と室内での育て方
「部屋に飾ってある花は、イベントを月に1〜2回開催していることもあるので、その時に余った花を飾ることもあります。それ以外の時は、以前働いていた花屋や現在働いてるところで買ったり、季節にあわせたものをミックスしていますね。今日は取材があるので桜を買ってきました」
多種多様な花に合わせて、さまざまなサイズや色彩、形、素材の花瓶が部屋に置いてある。花が鮮やかな色である限り、花瓶選びの主張も気になるところ。どのようなポイントで、花瓶を集めているのだろうか?
「花瓶はかわいいものがあれば、とりあえず買っちゃうことが多いです。イベントでも花と花瓶を売っているので、仕入れとして骨董屋に行くことがあるのですが、ついつい自分の部屋に置きたいものも買ってしまいますね。桜を挿しているスペイン製の花瓶は販売用に購入しましたが、もったいなくてイベントでは販売していなくて(笑)。そうやって花瓶を土台に花を選ぶので、あんまり困ることはないですね。でも形や色によって全然花の印象も部屋のバランスも変わってくるので難しいです。服を選ぶ感覚とはまた違うし。お店やポップアップイベントをする際にもよく聞かれる質問なのですが、写真やサイズがわかれば、花の長さも短めか長めの方がいいのか含めて提案できます。例えば、棚の上にある提灯のような花は曲線が綺麗なので、あえて長めに挿しています」
ほかにも、サボテンが珍しく水耕栽培の花瓶で育てられている。
「この子は、もう2年間ほど育てているのですが、もともとは不良品として捨てられそうだったところを持ち帰って。鉢がなかったこともあって、水耕栽培で育てています。サボテンの近くに置いてある『アラレア』という植物も日当たりがあまりなくても長く丈夫に生きれる植物なので、誰でも育てやすい植物ですね」
これだけ色々な特性の花や植物を飼う上で、観葉植物とは違って湿度や温度などに左右される室内での花の育て方の秘訣はあるのだろうか?
「切り花は、どうしても寿命が決められているので、あまり長持ちするためにケアできることは少ないのですが、頻繁に水換えしたり、エアコンが当たらない場所に置くなどちょっとした気遣いで変わることはありますね。意外と日当たりはあんまりない方がいいです。例えばチューリップは光に反応してすぐに開花してあっという間に枯れてしまうので、逆に陰っている場所に置いてあげることで長持ちはしてくれます」
理想的なお部屋のスタイルとして『ジャパンディ』
細部までこだわりを持ちつつも、あくまでも自分が居心地よく続けられる生活習慣と紐づいたインテリアの工夫を楽しむOyaさん。もともと北欧のインテリアを参考に部屋作りをしている彼が、これから挑戦してみたい部屋のイメージにあげるのが『ジャパンディ』だ。
「海外の方が、日本のインテリアを客観的に見て取り入れているインテリアデザインのジャンルだそうです。純・和風になりすぎず、ちょうどいいバランスで現代的に和のテイストを取り入れられそうだなと思って、最近Pinterestなどでチェックしています。例えば、いまの部屋でもブラインドの部分を和紙にしたり、照明や椅子の素材を和のテイストにすることで、印象が変わるかなと思います。いまの部屋ではなくなりますが、例えばコンクリートの壁の部屋だったら床に畳を引くなどコンテンポラリーな和のイメージも興味があります」
『ジャパンディ』のイメージで理想的なお部屋を描くとしたら、どんな家に住んでみたいか最後に聞いてみた。
「フラットで大きなワンルームに住みたいですね。古民家を改装したような平屋で、バスルームからリビングが繋がっていて、部屋全体的に日差しが入る開放感があるといいですよね。あとは、今後自宅でも花屋をオープンできたらいいなと思っていて、部屋の一角を週末だけ花屋としてイベントスペースにしたいですね」
NONDESIGN のお家はデザインを削ぎ落した、どこまでもシンプルな四角い「箱」。だからこそこの家は住む人が思いきり自由にできるように、あえてシンプルに。
真っ白なキャンバスに、あなたらしさを描いて、箱の中にお気に入りを詰め込んだら、世界にひとつだけのあなたの家が出来上がります。
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STAFF
[Text]
YOSHIKO KURATA