“ TABI ”が教えてくれる定番の意味|つくり手の熱が灯す、暮らしのマストハブ | UNSTANDARD(アンスタンダード)
2026.04.3

“ TABI ”が教えてくれる定番の意味|つくり手の熱が灯す、暮らしのマストハブ

“ TABI ”が教えてくれる定番の意味|つくり手の熱が灯す、暮らしのマストハブ

“ TABI ”が教えてくれる定番の意味|つくり手の熱が灯す、暮らしのマストハブ

 

つくり手のこだわりを紐解き、モノの魅力を再発見する「つくり手の熱が灯す、暮らしのマストハブ」。思わず暮らしに迎えたくなる、選りすぐりの一品と、その背景を紹介します。
暮らしを少し豊かにする、そんな自分だけの定番を見つける旅に出かけよう。

 

足袋のかたちをした靴下、(株)玉井商店の “ TABI ” シリーズ。開発部の婦木誠人さんが目指すのは「これさえあればいい」と思える誰かの定番になる靴下。デザインはごくシンプルに、だけど履き心地には徹底してこだわる。
老舗足袋屋の技術を織り込んだ一足は足袋の新しい可能性を感じさせてくれる。


老舗足袋屋が挑んだ新しい靴下 “ TABI ”

「かわいいですよね」

 

(株)玉井商店、開発部の婦木さんが眼を細める先にあるのは、現在、玉井商店が力を入れている靴下、“ TABI ”シリーズ。

 

婦木さんが手がけた同シリーズは足袋の老舗、玉井商店が提案する新しい足袋の「カタチ」だ。

 

入社当初は自社の営業部で靴下を担当していたという婦木さん。社長の言葉を借りると、「営業部のエース」だったという。

「営業部にいたときはとにかく『回転させてなんぼ』みたいな感じで、売れるものをたくさん売る、という感じでした」

 

靴下業界でも広く親しまれてきた玉井商店。婦木さんが営業部に在籍していた頃、中心にあったのは、比較的リーズナブルな日常使いの靴下。


しかし、靴下が安定した売り上げを誇るほど、置き去りになっていたのは他でもない足袋。
足袋は玉井商店の130年の伝統を支え続けてきた骨子だ。

 

伝統と技術に向き合い、立ち止まったとき、玉井商店は大きな転換期の入り口に立っていた。

開発部で生まれた 足袋型の靴下、“ TABI ” 。
都会的なデザインと履き心地にこだわった6種類のラインナップは瞬く間に注目を集めた。

 

「やっぱ足袋屋さんなんで、うちが新しくやるなら足袋の靴下以外にちょっとないかな、と。ただ、130年の歴史っていうのはある意味僕にはすごくプレッシャーです。歴史があるからこそ、ユーザーにがっかりしてほしくない」

 

「回転するもの」を知っているからこそ、妥協できないものづくりが始まった瞬間だった。


緩く編むというやさしさ

「僕らは『度目(どもく)が緩い』って言ったりするんですが、なんていうか、あまーく作っているんです。あえて緩く……うーん、やさしくというか……」

 

度目とは網目の密度のことを指し、度目をきつくすると生地にハリが生まれ、緩くすると柔らかな風合いになる。

 

“ TABI ” シリーズではあえて度目を緩くすることで、包み込むようにやさしく、快適な履き心地を実現している。

「履いてみないと分からないので、サンプルがあがってきたら履いてみて、『あれ?』と思うところがあれば修正してもらって。手作業で縫製していただいているので、思ったより大きいね、小さいね、ということもあったり……すごく難しかったです」

 

国内工場で一足一足手作業で縫製される “ TABI ” シリーズはかつて婦木さんが扱っていた、いわゆる「よく手に取られる靴下」の対極にあるような商品だ。


“ TABI ” の制作に携わる中、迷いや葛藤はなかったのだろうか。

 

「なかったですね。これまで扱っていた商品とは少し立ち位置が違うので。手に取りやすさよりも、今は、足袋屋 玉井商店の歴史やストーリーとかを知っていただきたいな、という思いです」

 

かつて数を追っていた婦木さんが今、追いかけるのは誰かの暮らしをやさしく包み込む一足だ。


白は足袋の “白” だから

デザインを削ぎ落とした “ TABI ” シリーズの唯一のアイコン、それが履き口に施された「掛糸」だ。「掛糸」とは足袋の履き口をコハゼと呼ばれる金具で留める糸のこと。

この掛糸を “ TABI ” の履き口にも施している。

「デザインにブランドネームを入れるってよくあると思うんですけど、『玉井商店』って入れるとあまりに昭和感が出過ぎる。なにかないか考えてたときに、掛糸付けたら面白いな、と。付けてみたら、『かわいい、あ、これやなって』思いました」

 

一つひとつ手作業で縫い付けているという “ TABI ” の掛糸は老舗の足袋屋がやるからこそ意味がある。

掛糸から吹き込まれる伝統が “ TABI ” に唯一無二の存在感を与えてくれる。

カラーバリエーションが豊富な “ TABI ” シリーズだが、婦木さんが「一番手に取られにくい」と表現したのは最も使い勝手がよさそうに見える、白色。

 

「不思議なことに白は一番動きが少ないですね。よく動くのは赤、次がピスタチオかな」

 

かつて “ 動く商品 ” を見続けてきた婦木さんが、それでも白をラインナップに入れるには理由がある。

 

「白は、足袋の “白” なんで」

 

白は足袋を最も象徴する色。玉井商店が足袋屋として、決して外すことのできない色だった。

 

「 “ TABI ” はファッションとしての靴下だけじゃないところがいいのかもしれないですね」

 

伝えたい思いがそこにある。
思いを運んでくれる “ TABI ” は玉井商店と婦木さんにとって、130年の歴史を今に届ける一足の架け橋なのかもしれない。


「なんかいいな」をかたちにする

「できるだけシンプルにしたいな、とは思ってますね。僕は “ モノ ” は好きやけど、“デザイン” はそこまで好きじゃない、というか」

 

婦木さんが “ TABI ” に向き合う姿勢は、デザイナーではなく、モノづくりをする職人としての姿。
必要なのは過剰な装飾ではなく、足袋としての機能美だ。

 

「靴下って肌着に近いものがあると思うんです。肌着も一度合うものを知ると分かるじゃないですか。靴下も同じように自分に合うものを知ることで、違和感に気づけるというか。だから、履いたときに『なんかいいな』と思ってもらえるものを作りたい」

遠慮がちに言葉を選ぶ婦木さんだが、そのこだわりはラインナップを見れば一目瞭然だ。それぞれの商品の最も大きな違いのひとつは、履き心地。すべてに技術とこだわりが凝縮されている。

例えば、ユニセックス商品の Essential Days TABI ” は裏糸を緩くし締め付けを和らげ、さらに足底にはパイル地を使うことでクッション性のある柔らかな履き心地を実現した。

「でもそういう機能面のこだわりってあんまり言っちゃうとダサいでしょ(笑)見えなくても必ずそこに理由があるから、こだわった先に『これがあればいい』、と思ってもらえるような誰かの定番になれたら」

 

特別な日もそうでない日も「これがいい」と手に取ってもらえるもの。それは、かつて着物文化の中で日本人のハレとケに寄り添ってきた、老舗玉井商店の足袋の姿そのものだ。


“ TABI ” が宿す足袋の遺伝子

“ TABI ” は決して足袋ではない。
だけど、足袋の遺伝子を “ TABI ” に宿すことはできるのかもしれない。

 

シンプルなデザインと、ストレスを感じにくい快適な履き心地。婦木さんが目指すのは暮らしに寄り添うオーダーメイドの足袋のような靴下だ。

 

「でも、実は僕も足袋自体のことはまだまだ知らなくて。きっと知ることでもっと “ TABI ” に入れたいものが出てくると思うんです。それは技術だったり背景だったり」

 

開発部では既存のシリーズに加え、今後も幅広い展開を予定しているという。
“ TABI ” はこれからもきっと、新しい足袋の価値を教えてくれる。

「毎日、なんか知らんけどこれに手が伸びる、靴下はこれさえあればいいと思える、そんな商品が作れたらいいですよね」

 

 “ TABI ” の成長が、足袋の新たな未来を紡いでいく。


STAFF
[Text] SAE HANE