島田さんは理容師で、ミッドセンチュリーを中心としたオールドアメリカンカルチャーに明るい。洋服も、音楽も、映画もそう、あらゆる角度から深掘ってきた趣味人だ。リノベーションした住まいにもその遍歴はしかるべくにじむものの、通り一遍のアメリカンハウスとは、また違う。そのこだわりとライフスタイルについて聞きながら、“好き”が加わって完成する「NONDESIGN NOA」での暮らしについても想像してもらう。
二度のリノベで、アメリカ東海岸から、西海岸まで。
島田さんは、住まいを二度リノベーションした。最初に大きく変えたのは間取りで、廊下と各部屋をへだてていた壁をとっぱらい、ワンルームに。その頃目指していたのは、アメリカ東海岸の「ブルックリン」を思わせる、インダストリアルな雰囲気だったという。

「『レンガづくりの倉庫にチェスターフィールドソファをどんと置いて、ステンレスキッチンをぶち込んで、勝手に住んだ』みたいな、そういうアメリカのクラフトなおっちゃんがやるようなスタイルに憧れていました。ただ、それを日本の物件でやってみても、どうしても“それ”にはならなかったんです」
天井も床もコンクリート剥き出しの空間にして、土足で生活してみても、なかなかどうして、“日本の家”から抜け出すことができない。そこで二度目のリノベーションをおこなったとき、今度は、打って変わってアメリカ西海岸のイメージを重ねてみた。
「ツートンカラーの壁面はそのままに、コンクリートだった天井は白く塗り、床にはウッドを敷きました。いわば、カリフォルニアのイーストサイドにあるような“普通の平屋”みたいに」

大陸の、東から西へ。その大移動は、そっくりそのまま、島田さん自身の“好き”や“こだわり”の変遷でもあった。
“旧きよきアメリカ”は、旧いままにしないのが粋。

アメリカへの憧ればかりが大きかった。
島田さんは昔の自分を、きっぱりそう振り返る。洋服も、音楽も、映画も、ひたむきにアメリカ至上。とくに夢中になったのは、50年代あたりのカルチャーだった。ただ、こだわりはひとしおなのに、現地へ行ったことがなかったことがずっとコンプレックスで、それを払拭しようと、仕事を辞めてバックパッキングに出ることに決めた。
「40年代、50年代のさまざまな映画で見かけた『グレイハウンド』という長距離バスを乗り継いだりしながら、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ダラス、オースティン、ニューヨーク、ボストンへ旅しました」
夢に見た地を巡り、晴れて、自分の“好き”と“こだわり”が正真正銘のものになったと感じたという。と同時に、「その頃はまだコテコテで、凝り固まって、隙がなかった」とも打ち明ける。
「洋服は、古着以外、全部ニセモノだと思っていました。音楽もそう。同じHIPHOPでも、スヌープ・ドッグとかドレーとか、そういうのは田舎のヤツが聴く音楽で、やっぱりギャング・スターとかトライブとか、ニューヨークのほうの音楽が一番だと思っていた」

アメリカといえば東海岸、ニューヨーク。その一点張りで、着る服も聴く音楽もそれに合わせて人一倍に心血を注いでいたのは、事実。そんな強張りがほぐれはじめたのは、30代に入った頃だったという。「だんだん、西寄りの“抜けたムード”も気持ちいいと感じるようになってきたんです」。
「大人になって余裕が出てきたというか。旧いものにこだわりすぎるのも独りよがりだし、ミッドセンチュリーが好きだとしても、ファッションなら、それを2025年にアップデートして着るのが面白いし、その方が素敵なんじゃないかって思うようになったんです。それは、音楽もインテリアも同じで」
「国籍」や「年代」から解き放たれて、無理なく集める。
西海岸ののびのびとしたムードにほだされて、東だ西だと決め切らない、はたまたオールドアメリカンであることにも固執しない、そのよさに気づきはじめた島田さんは、住まいにも、さまざまな国籍や年代の家具・インテリアをミックスするようになった。
たとえば、ダイニングテーブルはスコットランドのマッキントッシュ製。内蔵された天板がポップアップする仕様は数あれど、2枚も、というのはかなり珍しいそうで、拡げると10人でもゆったり食事を囲める。

かたわらのキャビネットはイギリス製で、酒瓶やグラスを収納でき、バーカウンターとしても機能するデザイン。リビングにある存在感たっぷりの本棚は、デンマークのデザイナーであるカイ・クリスチャンセンのものだ。

リビングと寝室の壁には、イギリスの画家、デイヴィッド・ホックニーの絵画。「色味が気持ちよくて好きなんです。僕にとっては、どこかアメリカっぽく感じられるというか。描かれたプールなどのモチーフもサバービアな感じがして、爽やかで」。

アメリカ西海岸の“普通の家”がベース、という軸は変わらず据えながら、かといって、フルスイングでアメリカしない。ミッドセンチュリーの家具を中心に集めることは念頭に置きながら、必ずしもそうじゃなくていい。ここではさまざまな出自や年代の家具・インテリアが自由にまじりあって、だから無理がないし、疲れない。
ちなみに、壁に掛ける絵画や写真、本棚に面出しする書籍などは、時季にあわせて入れ替えるのがこだわりのひとつ。


「家で流す音楽も、雨の日、晴れの日、朝・晩、季節ごとで選び分けたりします。洋服も、例えば暑い夏は90年代のチカーノを意識したり、イタリアのバケーションをイメージする。冬は寒空のニューヨーク、セントラルパークを散歩するおじさまの着こなしをイメージして楽しむ。そうやって自分なりのTPOに合わせて、一番気持ちのいい状態をつくるのが楽しいんです」
「100回くらい洗った赤いスウェットみたいで、大好き」
旧きよきアメリカをこよなく愛しつつ、住まいをのびのびと楽しむ島田さんに、“OLD AMERICAN”のカルチャーやスタイルが特徴の「NONDESIGN NOA」での暮らしを想像してもらった。
「外壁のツートンカラー、うちの壁に似ていて、めちゃめちゃ可愛いですね! 赤の色も強すぎないというか、100回くらい洗った赤いスウェットみたいで、大好きです(笑)」。

ちなみに島田さんの家の壁面のツートンは、アメリカの病院や刑務所などの公共施設で採用されることの多い内装がモチーフ。「台車などの車輪が擦れたりしても汚れが目立たないように、腰から下の部分だけ濃い色にしてあるそうです」。
また、内装の色づかいにも注目しつつ、「カリフォルニアにあるイームズハウスみたいだなって思いました」と続ける島田さん。
「あのスタイルって、一個の完成形だと思います。いまウチにあるテーブルやキャビネット、ウッドのブラインドは、どれもチークやローズウッドでトーンを合わせながら、50 年代の雰囲気にも合うようにしていますが、そういう派手すぎない家具が、イームズハウスにも置いてあった。だから、『NONDESIGN NOA』みたいな配色の空間にも、あえて地味な家具を置くのがクールだと思うんです」

そして、リビングからつながるガレージや中庭については、「カリフォルニア郊外にある、こういう住宅をアップデートしたイメージ」と、ビル・オーウェンスの写真集『Suburbia』を本棚からおもむろに取り出す島田さん。

「友人を招いてホームパーティを開くことも多くて。だから『NONDESIGN NOA』で、夏に窓やドアを開けっぱなしにして、庭でコロナビール飲みながらタコスを食えたら最高。まさにカリフォルニアスタイルですよ。60年代のローンチェアをいっぱい並べるのも可愛いと思います」
“普通”というアンスタンダードを求めて。

オールドアメリカンに軸足を置きながら、ジャンルも、国籍も、年代もなく、気取らず、てらわず、“アメリカの普通”という究極のアンスタンダードを追い続ける島田さん。
“旧きよき”は、懐かしんで突き詰めるより、むしろアップデートしながらさまざまなスタイルやカルチャーとミックスすること。洋服も、音楽も、そして住まいも、そんなたおやかで軽やかな視点や発想を持つと、その魅力にもっと気づくことができそうだ。


STAFF
[Text]
MASAHIRO KOSAKA(CORNELL)