一番その人らしさが現れる家の空間。“好き”が詰まった“場”には、ちょっとした工夫や色合わせのこだわりが反映されているはず。
そんなそれぞれ違った個性を持つ家の内装やインテリアについて話を聞いていく企画「イエの探求」。
今回伺ったのは空間デザイン会社員のmasashiさん。
デザイナーズハウスらしい洗練された雰囲気にmasashiさんの人柄を表すような明るくも芯のあるインテリアが溶け込んだご自宅。無機質な打ちっぱなしのコンクリート壁のワンルームには、赤青黄で統一したポップな家具のほか積み木やブロック玩具などが主張しながらも自然と調和する。
目を引く3色ルームはもちろん、カフェ巡りをきっかけに目指した空間ディレクターのお仕事や理想の家など話を伺った。
空間と自己との会話 300軒以上のカフェを巡り気付けたこと
今から約10年前にブルーボトルコーヒーが日本に上陸。
カフェを“流行り”から“文化”へと押し上げたこの「サードウェーブ」を皮切りに、多くの人々の生活に、カフェがより親しみのある場所として浸透した。
「生活の中で、カフェの存在がこれまで以上に強くなったと思うんですよね。当時住んでいた神戸を中心に先鋭的なカフェから個人経営の小さな喫茶店まで300軒以上のコーヒーショップを巡りました」
コーヒー好きが高じてはじめたカフェ巡り。いつしかそれらの空間が持つ魅力に惹かれていった。
「モラトリアムに近い学生時代、自分がどういう人間なのか、これから先どうなりたいのかをカフェを訪れる度に考えるようになっていって。その空間とある種の対話をしながら自身と向き合う時間を過ごしていくうちに、そんな風に自分を変えてくれた“空間”の持つ力に魅せられていきました」
このことを機に“空間デザイン”の魅力に引き寄せられていったmasashiさん。カフェを訪れてはその場所の何が魅力たる由縁なのか、それまで感覚として捉えていた心地よさや面白さなどをメモやノートに書き記し言語化していった。
そうしていくうちに、普段訪れる場所やなんとなく見ていた建築や物にも視線を向けるようになり、それらの先には空間ディスプレイ業界という世界があることを知る。
これまで有り余る時間と選択肢、学生ゆえの貪欲さゆえ、海外で日本語教師として働いたり、動画クリエイターとして起業するかなど色んな道を模索していた。
「1つの分野に専念すべきだと言うのは理解していたんです。でも20代を捧げる覚悟で取り組めることってなんだろうと立ち止まった時に、『これまで自分が一番影響を受けたことで、社会に恩返しをしたい』と強く思いました。僕にとってそれが“空間”だったんです」
その後、“空間”について本気で学びたいと就職活動を辞めて大学卒業後は、建築デザインの専門学校に入学。2年間空間デザインや設計について学んだ後に都内のデザイン会社にディレクター兼営業として入社し、現在に至る。
自宅をキャンバスに 絵具を垂らすような自由なカラーリング術
3色ルームと定義しSNSでも発信する現在のご自宅は、建築家の谷内田章夫さんが手掛けたデザイナーズマンションのうちの一棟。
玄関を開けてすぐの階段を下りると広がるワンルームは3.7mの天井高で実際よりも広く開けた印象だ。
「谷内田さんの作品を決め打ちして探していました。コンクリート壁で高天井、収納も充実していて僕が家に求める条件の全てが揃っています」
無機質なコンクリート壁に開放的な大きな窓を備える居住スペースには赤青黄の家具や小物が点々と配置されている。
「多忙な生活の中でも、子どもの頃の無邪気な気持ちを忘れないように、遊び心を取り入れたいとこの3色を中心に家具を選んでいて。あくまで全体は落ち着いた印象で、そこに挿し色として映える範疇に絞った」
キャンバスに見立てた自宅に絵具を垂らすように鮮やかな色味が弾ける自宅の中心にある真っ白なエッグテーブルとそれを3脚のチェアが取り囲むこのスペースがmasashiさんのお気に入りの場所。
「ここでコーヒーを飲みながら読書する日もあれば友人たちと談笑して過ごしたり、僕が好きなカフェの雰囲気を表現しています。このテーブルも3人で囲んでも狭過ぎず広過ぎずの絶妙なサイジングなんです。完全な自分だけの家というより誰かが来訪してくることを前提としたスタイリングを心がけていますね」
ライフスタイルの全てをさらけ出すのではなく、見られることを前提とした緊張感が生活感を排除している。
確かにどちらかというと家の造りも含めて、住居というより視覚的に見て楽しいアートスペースといった印象が強い。
ロフト部分をベッドスペースに、キッチンも少し奥まって位置するため、3色ルームには生活に関する情報よりもインテリアやアート、デザインに関する情報が多く飛び込んでくる。
理想の家とは
最後にmasashiさんに理想の家について聞いた。
「今の家でも充分に高いんですが、4mくらいの天井高だと嬉しいですね。考えごとをするときによく上を向くので天井が低いとアイデアも降りてこないような気がして。あとは天窓だったりペンダントライトを吊るせるような配線だったり今の家をブラッシュアップした環境が理想です」
大きな窓からの光が照らす色の三原色は今日も文字通り日々の生活を彩り、時に一日の活力を時に子どものような遊び心を思い出させてくれる。
STAFF
[Text]
kohei kawai