一番その人らしさが現れる家の空間。“好き”が詰まった“場”には、ちょっとした工夫や色合わせのこだわりが反映されているはず。そんなそれぞれ違った個性を持つ自宅の内装やインテリアについて話を聞いていく企画「イエの探求」。
今回紹介する家は、ファッションクリエイターとして活躍するDAI TANAKAさんの家。2年前から住む家は、大好きな建築家がつくる空間に近いイメージの家を探し、ようやくたどり着いた物件。パートナーKarinさんと愛犬の「ことら」くんと暮らす生活の場、そしてクリエイターとしての創作の場として、心地よく暮らすヒントを紹介していただいた。
心地よいのは素材を活かしバランスが取れた空間
玄関からキッチンのあるLDKまでは無骨なコンクリートの打ちっぱなし、その奥にある部屋には光がたっぷり入る広い窓と白い壁の空間が広がる。窓側の部屋に行くにつれて天井が高くなり、より開放感を感じられる。
この部屋に住む前は、同じマンションの下の階にすんでいたDAIさん。
「フランク・ロイド・ライトが好きで、彼が手がけた無駄のないシンプルさ、素材を活かした空間に憧れがあります。何かに偏ってるのではなく、いろんなものがより良いバランスで保たれているんです。そんな家に住みたかったので、できるだけ近いデザインの家を探して今の家にたどりつきました」
パートナーとの結婚を機に、同じマンションの広い部屋に移り住むことに。部屋を移ったタイミングで迎え入れたのが、愛犬のことらくん。リビングの黒いソファは、ことらくんもお気に入り。
「IKEAで購入したソファは、前の部屋から持ってきたもの。本当は新しく買い替えたかったんですが、ことらくんがソファを掘っちゃうんですよ。まだ買い替える勇気は出ないですね(笑)」
黒を基調としたニュートラルな空間には、ソファとは素材の違うチェアを置いてポイントをつくる。ゆったり座りながら、リビングに置かれた写真集やデザイン本でアイデアをインプット。
「ファッションもそうなんですけど、無骨な感じ、無機質な感じが基本的には好きで。それだけだとメリハリがないので、色や素材の違うものでバランスを取るようにしています。以前はもっとシンプルな部屋だったんですが、妻が遊び心がある人なので、一緒にいるうちに選択肢が広がって今のようなテイストになりました」
仕事柄、服や靴などファッションアイテムが多いDAIさん。近くのマンションの1室を倉庫として借り、そこに収納しているそう。自分が好きな空間を表現するために、置くもの、置かないものを取捨選択することはとても大切。
ものを慈しみ、好きなものだけの空間に
家に置くものを厳選してはいるが、決してミニマリストではない。「意外と多趣味なんですよ」とDAIさん。
ゲームのコントローラーなど、よく使うものはカゴに入れてオープン収納。種類の多い香水やメガネは、引き出しの中に。既成概念にとらわれず収納場所を決めることが、空間を美しく維持するポイントなのかもしれない。
「家で仕事をしていても、その日の気分で香水をつけたりお気に入りの眼鏡をかけて、気分を上げています。眼鏡、アクセサリー、時計は、自分のテンションをあげてくれる大切なものですね」
部屋には、必ずお花を飾る。モノトーンな空間に花の美しさが際立ち、アクセントに。
「実家でもいつも花が生けてあって、昔から花は身近な存在でした。メンタル的に大変だった時期に、自分で好きなように花を生けてみたら、アート制作をしてるようで楽しかったんですよ。それ以来、花を選んで生ける時間が気晴らしになっています」
自らの審美眼を持って選んだものに囲まれて暮らす。きっかけは、ファッションに対する考え方の変化からだった。
「ファッションについて発信しているうちに、安いから、流行ってるから買うという考えをやめて、自分がいいと思ったものだけを買う方が、心が豊かだなと思うようになりました。買う前に『本当に好き』なのか自分に向き合う。インテリアもその延長で、長く大事にできるものだけを買うようになりました」
アイデアを与えてくれるものたち
東京、名古屋を拠点に活躍するDAIさん。映像編集やコンテンツ制作など、家で仕事をする時間も多いそう。
ソファのあるLDKの隣の部屋には、窓際に2畳ほどのスペースがあり、白と黒で統一されたワークスペースとなっている。
デスク周りには、自身の感性をくすぐるものをチョイスしてディスプレイ。DAIさんのブランド「sdgz」のデザイナーが手がけたアートワーク、韓国のラッパーのアルバム、台湾のデザインチームがつくった日めくりカレンダー…今の自分の気分に合うものを飾る。
「デスクの側の本棚には、自分のクリエイティブを生み出すヒントになるような写真集やカルチャーをピックアップした本を置いています。僕は自分から発信するものにはこだわりがあって、iPhoneでもいいのにシネマカメラで撮ったりしてるんです。それはインプットしたものを自分なりに表現したいという欲があって、まだまだ表現を磨いていきたいんですよね」
クリエイティブを育む上で、音楽も欠かせない要素の一つ。ガラス戸のローキャビネットの上には、最近購入した「TRANSPARENT(トランスペアレント)」のレコードプレイヤーとスピーカー。
「オーディオの機器もいろいろと持っていたんですが、改めて部屋のインテリアとしてかっこいいものを置きたいと思い購入しました。いつもなら黒を選んでしまうのですが、今回は冒険心に従って白を選びました。ムダのない美しい形状、音の響きなど音楽機器としての性能も含めて細部までこだわってつくられています」
ローキャビネットには茶器やお気に入りの器を飾り、モダンな雰囲気を演出。
「母がお茶の先生で、家にあった茶器をいくつか飾っています。茶器の質感とかディティールがすごく好きですね。その他の器は、ファッションデザイナーが手がけたものです。ファッションからインテリア、食器など派生してプロダクトをつくっているデザイナーもいるんですよ。ファッションブランドから発生した独特なデザインの面白さってあるんですよね。どんなものでも、つくり手のこだわりを感じるものが好きかな」
家は、自由に描ける箱であってほしい
数々のクリエイティブを生み出すDAIさんの部屋。もし理想の住まいをつくるなら、どんな家を思い描くのだろうか。
「もし街中に家を建てるなら、やっぱり今の家みたいに装飾がなく、住み手が自由にカスタマイズできる家がいいかな。それと、広い窓は必須です。今の家も遠くの景色が見渡せるので気に入っているのですが、賃貸ではできない大きさの窓がほしいですね」
休日にはハイキングや登山など山で過ごすこともあり、いつかは自然豊かな場所に住みたいという願望もあるそう。
「割と静かに自然と関わりながら過ごしたいタイプなので、建物が外の自然と調和する家が理想的。フランク・ロイド・ライトの建物も好きですし、メキシコにあるルイス・バラガンの家が一番理想に近いです。無機質な建物に木々や水など自然界の物質が調和していて…いつかそんな家を森の中に建てられたらいいなと思っています」
自然に触れられる環境を持つ。それはクリエイティブな思考を保つために必要なこと。
「クリエイティブを生み出し続けるために、僕にとって自然と触れる機会をもつことはとても大切なこと。だから、街中に住む以外の選択肢を持ちたいんです。もしそれが住まいでなくても、農業や漁業など一次産業に関わることでもいいかもしれない。街中から離れて俯瞰的に見れる環境がつくれたら、また新しい発想を見つけられるんじゃないかな」
自分の心に向き合い、本当に「好き」なものに囲まれた部屋。DAIさんのように自分だけの審美眼を持ち、部屋を整えてみたら…自分の心が満たされ、新しいアイデアが湧いてくるかもしれない。
STAFF
[Text]
YUKARI MIKAMI