一番その人らしさが現れる家の空間。“好き”が詰まった“場”には、ちょっとした工夫や色合わせのこだわりが反映されているはず。
そんなそれぞれ違った個性を持つ家の内装やインテリアについて話を聞いていく企画「イエの探求」。
今回伺ったのは、作曲家/編曲家として活動するakira sorimachiさん。
ギターや電子ピアノなど機材が置かれた事務所兼住居には、無数に積まれた本やレコード、映画関連のアート作品などakiraさんを構成するモノが所狭しと並ぶ。
制作活動も行う1LDKの一室から流れる音楽は、どんな生活を作り上げるのか。
これまでのキャリアや日々の暮らし、インテリア、インスピレーションを受けている映画や書籍などを聞いた。
サマーソニック出演 順風満帆な音楽漬けの日々
音楽との出会いは幼少期に遡る。
幼い頃からピアノを習い、高校では弦楽部に所属する傍ら、軽音部、合唱部などにも参加するなど様々な角度から音楽に触れる。クラシックからジャズ、J-POP、ボーカロイドにいたるまで多様なジャンルの知見を青春時代から深めてきた。
大学では和音の展開やハーモニーの構成方法などを説いた藝大和声を学び、本格的に作曲活動を開始。また自身がギターとコーラスを務めるバンドallicholyではサマーソニックに出演するなど公私共に音楽漬けの生活を送る。
大学卒業後は、音楽関係ではなく広告代理店に就職。SNS分野を中心としたマーケティングを担当。
これまで音楽漬けの人生を歩み、バンドではフェスにも出演するなど、着実に歩みを進めてきたakiraさん。
しかし大学卒業後は、一般企業に就職する道を選んだ。順風満帆にも見える音楽活動の影には人知れず感じた不安があったという。
音楽と生活 傾く天秤に苦しむ日々
「現実的な話ですが、将来的にも経済的にもこのまま音楽だけで生きていけるのかという懸念がありました。また、当時のバンドメンバーも就職するにあたり、バンド自体の存続も難しくなった事も就職を選んだ理由の1つです。一度社会に出てから、音楽について見つめ直そうと就職しました」
音楽活動と並行し、広告代理店で会社員として働く生活。
想像以上に多忙な毎日は、徐々にakiraさんと音楽との距離を遠ざけていった。
そんな日々の中で改めて「音楽と向き合いたい」とある日会社を休職。
同時期に副業的に行っていた楽曲提供や編曲などの依頼が多く舞い込むようになり、ついには退職を決意した。
当初は、SNSのDMからの依頼をこなす日々だったが、徐々に企業や作曲家仲間との繋がりで仕事も増えていった。
「当時を振り返ると先の見えない不安な時期でした。でも、好きな音楽を仕事にできたことがなにより励みになりましたね。会社員時代に培ったビジネスコミュニケーションやプロジェクトの進め方などの基本的なところから、現在も続けているアーティストさん向けの広告配信など、これまでの経験も身になっています」
生活する仕事場とインテリアの役割
部屋のコンセプトは“生活感と過ごしやすさを重視した好みの詰まった空間” 。
ドアを開けてすぐに飛び込んでくるのは、仕事道具の楽器類や、映画関連のアート作品、大きな棚にも収まりきらず積まれた書籍やレコードの数々など。
akiraさんを構成する“好き”が無数に敷き詰められた空間は、1LDKを二分したダイニングと作業場に分けられる。
空間を仕切るために配置されたラグも、各スペースの家具の色味や雰囲気に合わせて選んだ。
落ち着いた時間を過ごすダイニングには机や床材の質感やカラーリングにあった優しい色合い。
「ダイニングテーブルとフローリングの質感が似ていて、木から木が生えているように見えるので、雰囲気に合うようにラグで仕切っています」
一方、作業場はカリモクのチェアや観葉植物のグリーンなどと同色のオリエンタルなラグが敷かれている。
ギターをはじめとした、ヴァイオリン、ベースなどの様々な弦楽器や多種多様な電子楽器が囲う作業場。
「機材は全体的にダークトーンのものが主流で、どうしても部屋の雰囲気が暗くなりがちなので制作する場所は大きな観葉植物や明るめの家具を配置しています」
自身はもちろん、時折りアーティストを招いて楽器を奏でながら作曲活動を行うため、録音時に音が反響しないようにあえて本やレコードなどもたくさん置くようにしているという。
「でも、ただ単に反響を防ぐだけじゃなく、作業中も視覚的に情報が入ってくるようにレイアウトしています。スタジオブースのような殺風景な場所が苦手なので、リラックスできる質素すぎない生活感を意識してます」
そんな空間にはクラシックやジャズ、J-POPなど多種多様な音楽家やアーティストのレコードが並ぶ。同じ曲でも録音環境の違う作品などもあり、作曲家ならではの拘りも感じる。
また、壁には飾られた映画関連のアート作品やポスターなど、趣味と語る映画鑑賞や読書の影響もインテリアに多く反映されている。
映画や本から学ぶインテリアと音楽
特にフランス映画を好んで鑑賞するakiraさん。
「フランスの映画監督のエリック・ロメールの撮る映像には同郷の画家アンリ・マティスの作品がよく登場するんです。存在感がありながら、それでいて自然と家に馴染んでいて。そんなお家づくりにも影響を受けてますね」
フランス映画の魅力は、作品の内容だけに収まらず、作曲家ならではの視点も垣間見える。
「一般的にフランス映画ってお洒落で明るいイメージを持ちますよね。でも、作品を観ていくと穏やかでありながら時に激しさもあり、ストーリーも淡々と進むようで人間模様は生々しく描かれていたり、映像の美しさとのギャップが魅力だと思います」
フランス映画の中でもフィルム映画特有の色味や質感、撮り方が特長的な60〜80年代の作品を好んで観るakiraさん。映画を通して受けるインスピレーションも多いという。
「映画音楽は作品の表情(物語)を豊かにする役割があると思っています。私の仕事だと編曲次第で、作品のジャンルを自由に変えられるので、映画からも学ぶことが多いですね。また書籍も同様で、様々な作品を読んでいると作中でレコードを流すシーンがあったりするんです。そこで新しい音楽に出会えたりと、音楽以外から音楽を知ることも媒体問わず色んな作品に目を通す理由の一つです」
自由に音を奏でる生活空間
akiraさんの理想の家について聞いた。
「現在の家に引っ越すまで、機材の数もサイズもコンパクトだったので、自由に機材を置けるくらいの広さが欲しいですね。吹き抜けのスタジオで2階から1階を見下ろせたり、制作スペースと居住空間を分けたお家には憧れます」
またエリアも郊外の自然に囲まれた場所で周囲にあまり人が住んでいない環境が理想だと言う。その理由もまた仕事を軸に考えている。
「日中よりも夜中の方が制作に没頭できるんですけど、近隣との兼ね合いもあるので気にせず楽器を鳴らせたら嬉しいです。一緒に作業する方達然り、ミュージシャンは夜型の人が多いので(笑)」
好きな物や音楽に囲まれ、それらが相互に作用しながら生活と仕事を支えているakiraさん宅。
人生を通して、紆余曲折しながら紡がれてきた音色は、今日も都会の一室から響き渡っている。
STAFF
[Text]
kohei kawai