家を通して暮らしを楽しむ人の、家づくりにまつわる情報を発信。家とライフスタイルの関係性を探り、“好き”が詰まった住まい方を紹介します。
今回は夫婦でキャンプを楽しむ、yuucaさんのご自宅を拝見。木材が活かされた室内には、キャンプで各地を訪れた際に集めたヴィンテージ品など、古いものと新しいものが程よくミックスされ、心地よい空間をつくりだしている。細部までこだわり抜かれた家は、どのようにしてつくられたのだろうか。
アウトドアが生活の中心になるまで
部屋の大きな窓からは美しい山の稜線が見える。芝生が広がる庭では、たまにテントを張ってお家キャンプを楽しんだり。自然を身近に感じられるように、ロケーションを重視して家の場所を選んだyuucaさん。
「キャンプを始めてから、自然の中で過ごすことが好きになったので、せっかく家を建てるなら『山や海の近くがいいよね』と夫と相談していました。とはいえ仕事や買い物など日常の利便性も大切なので、広島市の中心部へアクセスしやすい今の場所を探しました」
キャンプとの出会いは9年前。それまでキャンプには、まったく興味がなかったのだそう。
「当時付き合っていた夫に『一緒にやろうよ』と誘われたんですが、お風呂に入れないし、虫も出るし…と嫌で断ったんです(笑)。でもInstagramで色々調べてるうちに、キャンプサイトをおしゃれに飾り付けている方たちの投稿を見つけて、こんなキャンプの楽しみ方があるんだなと。自分でも色々準備をしてキャンプをしてみたら楽しくてハマってしまいました」
アウトドアインテリアの魅力は、自分の好きな空間をその都度つくれるところ。ヴィンテージのランタンやウッドテーブル、テントに調理器具…場所や季節などロケーションごとに使うものを変えて、自分の好みの空間をつくる。キャンプを続けるうちに愛用のギアも増えていった。
自然を活かす空間づくり
結婚を機に家を建てることに決めた、yuucaさん夫婦。共通の趣味であるキャンプをテーマに、木の素材感を活かした家にすることに。
「木目調など擬似的な質感ではなく、本物の木を使って家をつくりたかったので、木にこだわって家づくりをする工務店を探していたところ、私たちの持つイメージに合いそうな工務店をインスタで見つけました。広島の木材にこだわって使用していたり、むやみに木を伐採せず森を守る活動をしていることなど、家づくりに対するポリシーも素敵だなと思ったんです」
2人のライフスタイルや好みのテイストなども細かくヒアリングしたうえで、設計から素材選びまで行われた。家づくりによく使用される杉や檜は和のテイストが強くなってしまうため、ヴィンテージのインテリアに合わせて、床や造作家具は楢(なら)やラワンを使用することに。木が持つ風合い、色、木目…ブラウンのコントラストが美しい空間が出来上がった。
「塗料は木の個性が生かされるような色を選びました。木材に個性があるんで、同じ塗料を塗っても同じ色にはならない。今はまだ新しいので(木の色が)白っぽいですけど、経年変化してもっと飴色になっていきます。住みながら変化を楽しめたらいいなって」
デザイン性、そして快適に生活できるように機能性も重視している。
「寒さ暑さ対策のために、機密性・断熱性にもこだわっています。庭側の屋根は、冬は室内に日の光が入るように、夏は遮るように計算して設計してもらいました。庭の植栽は大きさや種類などを考慮して、自分で選定して植えました。ウッドデッキの前に植えた落葉樹は、冬は葉が落ちるので陽が室内に入りやすくなるし、夏は木が影になってくれて涼しい。しかも、木漏れ日がとても美しいんですよ」
頻繁にキャンプをするため、入り口付近にはキャンプ道具を置くパントリーを配置。靴のまま出入りできるように床はモルタル張り。壁は珪藻土で、湿気を吸収するつくりになっている。パントリーとキッチンは繋がっており、物の出し入れが容易にできるような造りになっている。
入り口からリビングまで細長い土間になっており、パントリーの反対側にはアウトドアシューズも収納できる下駄箱、その先には薪ストーブが設置されているフリースペースになっている。玄関となる部分を広くとることにより、植物や生活雑貨を飾るスペースとして空間を有効的に使うことができている。
玄関からリビング、そしてキッチンまで仕切りはなく、ひとつの大きな空間となっている。この空間のこだわりの一つが、大きな窓。部屋の中からも美しい山の稜線が見えるように設置した。
「窓からどんな景色が切り取られるのか、大切にしたかったんです。でも設計図に書かれている高さだけでは、窓の大きさや景色の見え方の想像がつかなくて。窓は特注になるため、早く決めないといけないし、後から変更もできない。最初に重要な部分を決めなくちゃいけなかったので、かなり悩みましたね」
カウンター外からの見え方にもこだわったキッチン。システムキッチンの形に合わせて、木の収納家具をオーダー。所々に、友人の真鍮作家がつくった取っ手や金具があり、これらも経年変化を楽しむ工夫のひとつ。
キッチン奥には、夫婦兼用のキャンプ服も並ぶウォークインクローゼット。スッキリして見えるポイントは、アイテムごとに分けて収納していること。yuucaさんでも手が届く高さに設定し、しまいやすさ、出しやすさを重視して設計されている。
ヴィンテージショップで集めたお気に入り
まるでインテリア雑誌の1ページのように、バランスがとれた美しい空間。家具や小物など「一つひとつ、これだというものに出会えるまで探した」とyuucaさん。特に気に入っているのは、座り心地抜群のソファー。
「ソファーはずっと使い続けると決めているぐらいお気に入りです。コーデュロイで同じ形のようなものもあるんですけど、醸し出すものが違うんです。座り心地とも含め、自分が思い描いていたものと出会って。ソファーに座りながらまったりするのが幸せなんですよね。でも夏だとひんやりして気持ちいいので、床に寝っ転がってます。冬も…薪ストーブをつけると、2人で床に寝転がっちゃう。案外ソファより床にいることが多いかも(笑)」
日本各地でキャンプをするついでに、ご当地のヴィンテージショップに行くことが多いそう。その時々、買い集めたヴィンテージの家具や小物が置かれている。選ぶのは、ちょっと変わっているもの。ユニークな形やデザインのものに惹かれるのだそう。一つひとつが個性的であっても、バランスよくまとまって見える秘訣は、色数を少なくすること。
「うちにはカラフルなものってほとんどないんですよね。ベースは木で、差し色にはグリーン。植物も個性的なものを選びがちかな。でもそれがある意味、良いアクセントになってるかもしれません」
植物もたくさん置けるように、土間部分に広くスペースをとった。土間なので、汚れを気にせず植物の世話ができる。見た目だけでなく、利便性もきちんと押さえておくのがyuucaさんのこだわり。
季節を感じ、歳月とともに変化する家
自分たちの理想の家を建て、「日常がより楽しくなった」というyuucaさん。
「以前はもっと街中に住んでいたので、キャンプに行くことで日常から離れて自然を感じる、いわばイベントだったんです。でも今は遠くに行かずとも自然が近くて、何か日常の中にアウトドアが溶け込んだみたいなところがありますね」
広い芝生の庭に夏はプールを出して水遊び、冬は薪ストーブ前でコーヒーを飲みながらゆっくりした時間を過ごす。天気のいい日はバーベキューをしたり、テントを張ってお家キャンプを楽しむことも。
「毎年、年越しキャンプに行ってたんですけど、せっかく家を建てたんだから家で過ごすことにしました。でもキャンプはしたいから庭にテントを張って過ごしました。気が向いたらウッドデッキで朝食を食べたり、週末も友人を呼んで庭で焼き鳥をしたんですよ」
まさに日常の中にアウトドアが溶け込んだ生活。今の家にとても満足しているとのことだが、今後取り組んでみたいこともあるという。
「今後は庭に山小屋のような建物を建てたいんです。夫と秘密基地のような離れがあったら楽しいよねと話していて、いつかつくるつもりです。例えば子どもができたらそこを子どもが使ってもいいし、室内に仕切りをはめて子ども部屋を作ってもいい。家族が増えたり、キャンプに飽きてしまってもいかようにも使えるようにシンプルなつくりになっています。実は自分たちのライフスタイルに合わせて変化できる家でもあるんです」
季節に合わせて、家族に合わせて。年月とともにライフスタイルが変わることもある。しかし、あらかじめ余白を持つことでその変化に柔軟に対応できる。yuucaさんの家は、自分たちの好きを表現しながらもカスタマイズできる、変化を楽しめる家なのだろう。
STAFF
[Text]
YUKARI MIKAMI