一番その人らしさが現れる家の空間。“好き”が詰まった“場”には、ちょっとした工夫や色合わせのこだわりが反映されているはず。そんなそれぞれ違った個性を持つ自宅の内装やインテリアについて話を聞いていく企画「イエの探求」。
今回は、自然光が降りそそぐ2階建てに犬1匹と家族3人で暮らす、イラストレーター・よしいちひろさんのご自宅へ。注文住宅として建てた家は、今年春にリノベーション予定。今後もこの家で理想的な空間を描いていきたいというよしいさんに、柔軟にライフスタイルにあわせた空間づくりのコツを聞きました。
リノベーションすることを前提に
長閑な保護樹林に囲まれた住宅地を歩いた先に見える白い外装の戸建てに住む、イラストレーター・よしいちひろさん。窓から犬が顔を出して元気にお出迎えしてくれる2階建ての注文住宅に暮らして9年になる。
「妊娠してからすぐに家を建てようという話から決めました。でも、あまり計画的にイメージを固めていたわけでもなかったので、最初はブランドがデザインする家を買うかとか、設計士さんにも相談しようか色々と考えたのですが、不動産屋さんがすごくいい人で。当時住んでいた場所付近の土地を探してくれて、建築条件付の工務店さんとも親身になって話してくれた結果、建築条件付きの工務店さんと色々と写真を共有しながら建てました」
この家の特徴は1階も2階も各階ごとにフラットなこと。1階のベッドスペースは広々と横並びにベッドルームとお風呂場、向かいの通路には本棚が置かれている。2階も同じく、キッチンからリビングまでがワンフロアに集まっているため、窓から差し込む自然光でリラックスしたムードが全体に広がる。
「子どもが生まれた当初のコンセプトとしては、家の中すべてが繋がっていてみんなの気配が感じられる方がいいと思っていました。だから各部屋にドアを建てずに、出来るだけカーテンを使うようにしています。同時に、子どもが成長する中でライフスタイルのステージの変化にともなってリノベーションできるようにしていこうとも思っていたので、あえて敷居や装飾などは特に設けなかったんです」
実際に3月末から当初予定していた設計士さんを招いて、1階と2階どちらもリノベーションを行うんだとか。
「子どもが小学生になってから自室が必要になったことと重なり、コロナ禍で夫のリモート部屋と私の仕事場を別々に確保する必要ができて。現状は、2階のロフト上に子ども部屋、私の仕事場だった1階奥を夫のリモート場所にしていて、私は2階のリビング中央に移動しています。リノベーションでは、ドアノブのデザインからこだわりながら、1階のベッドルームに仕切りを建てて、子ども部屋と夫の仕事場のほか二段ベッドで寝室も構えます。2階のリビングスペースには、壁とドアを新たに建てて小屋型の私の作業部屋をつくります。将来的に使わなくなったら、パントリーとしても使えるような設計でイメージしていますね」
生活の中でのスイッチの切り替え方法
そうした生活と仕事が地続きで繋がる家では、どのような毎日のルーティンでスイッチのオン/オフをつくっているのだろうか?
「朝6時に子どもに起こされて、朝の身支度をしながら7時に朝食を食べて各々外出する時に私も犬の散歩に出かけています。そこから8時30分〜5時30分まで自分ひとりの時間として仕事に集中しますね。美術館やショッピングも平日のその時間帯に行くようにしていて。夕方には子どもが帰宅して、夜はみんなでトランプしたり読書して20時30分には電気が消えます。むしろ子どもがいない頃は、夜中までダラダラ仕事をして、3時間刻みで1日仮眠をとりながら生活して、夕方には夕飯がてら飲みに出かけていたので、いまの生活の方が自動的にスイッチのオン/オフは時間制限で出来ているかもしれないです」
コロナ禍のステイホーム期間中では、急遽各自の作業場所を譲り合いながら確保することとなったため、初めて自宅外に事務所を構えたこともあったそう。しかし、マンションの壁の薄さから作業もままならず4日間で自宅へ戻ったという。そうした場所を移動することなく家で過ごす時間が多い中で、毎日をフレッシュに感じる秘訣も教えてくれた。
「どこかに出掛ける用事がなくとも、洋服が純粋に好きなこともあって毎日着たい服を考えて、それにあったメイクもするようにしています。毎日自分なりのおしゃれをすることで気分も上がって、スイッチのオンに繋がってますね」
オンとは反対に、仕事からリラックスモードへのオフの切り替えは、どのような意識を心がけているのだろうか?
「わりとイラストレーターとしての仕事の時間もリラックスしているんですよね。自分が好きなモチーフを描いたり、かわいいものの画像を検索したり好きなことが凝縮した時間なんです。時たま、締め切りが立て込むと脳の緊張で寝づらくなるのですが、そんな時はアロマスプレーを部屋に吹きかけてます。あとは犬の散歩が朝のルーティン化していることで、気分転換の助けになってるような気がします。他のルーティンとして、子どもと寝る30分前に読書タイムをつくっていることも心地いい入眠に繋がっているのかも。これも子どもがいない頃は、メイクも落とさずに寝て起きては仕事することが多かったので、いまの生活の方が自然体かつ健康的な時間が過ごせています」
好きなものに囲まれる独自のミックスセンス
1階のベッドルームには読書タイムの時に付けるというIKEAの黄色のテントウムシライトがやわらかい灯りで部屋を照らす。寝室の2つの窓からは自然光がそそぐため、起床もスムーズに。ベッドルームの枕元には読書用の本があるほか、向かいの階段下スペースにはたくさんの書籍が収納されている。それらの間を縫うように飾られているのが息子さんによる絵や作品の数々。すべて額装してあることで、うまく家の雰囲気に馴染んでいる。
「海外に行った時に買い貯めていたヴィンテージの額縁に子どもの絵を飾ってます。壁が漆喰で塗ってもらっているので、光が綺麗に見えてより空間に馴染むんですよね。食器も同じく、海外に行った時に買ったヴィンテージものや作家さんの作品、量産ものまでさまざまに用途を気にせず、かわいい見た目であればコレクションしてしまいます」
そうした小物にとどまらず部屋の家具にも、よしいさん独自のミックスセンスが散りばめられている。
「古いものが好きなこともあって、家具は古道具屋で集めることが多いです。行きつけの古道具屋は、国立にある『レット・エム・イン』。仕入れをすべて日本国内でしていることから、かわいいデザインでも安く手に入れられるんです。『日本人の買い物の軌跡』というショップのコンセプトにある通り、日本人の渡来もの好きが高じて外国製の家具がお店に流れ着いてきていて。実際にリビングで使っている家具は、イギリス製の書庫やフランス製の棚です。流行り関係なく、いつ行っても安くて面白いものがたくさんあるお気に入りのお店なんです」
古道具屋だけではなく、ご自身でも元々ベビーチェアとして使っていた椅子を作業用のものに改造するなど、ライフスタイルによって循環しながら柔軟に組み合わせて使い続けているという。
スペースに合わせた居心地のよさをつくり続けられる家こそ理想
これから行うリノベーションも今回限りと言わず、今後も家族の成長に合わせて変化していける家を理想にしたいと続ける。
「リノベーションするにあたり、最初はマイク・ミルズ監督の『人生はビギナーズ』に出てくる家に憧れたり、Pinterestでカラフルな内容を参考に探していたんですが、欲をだしたらキリがないなと思って。そんな時に東孝光さん建築による青山にある『塔の家』に出会って。東さんの娘である東利恵さんがその建築のコンセプトについて語るインタビューで、平米数の少ない三角形の構造だけど、『物理的な広さと感じる広さはイコールではない』『お金をかけてもいい家になるとは限らない、どう使っているかが大事』という言葉に感銘を受けました。よく家は3回建てないとわからないと言いますが、私の場合は広さ関係なく、この場所で柔軟に変えていきながら居心地の良さを追求していきたいなと思います」
好きなものも、休日の過ごし方も、食べたいものも、趣味だって、100人いれば100通りの暮らしがそこにある。同じ人がひとりもいないように、同じ暮らしだってひとつもないはず。だから、住む人が自分を自由に表現できる、そんな家をつくりました。
NONDESIGN のお家はデザインを削ぎ落した、どこまでもシンプルな四角い「箱」。だからこそこの家は住む人が思いきり自由にできるように、あえてシンプルに。
真っ白なキャンバスに、あなたらしさを描いて、箱の中にお気に入りを詰め込んだら、世界にひとつだけのあなたのお家が出来上がります。
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STAFF
[Text]
YOSHIKO KURATA