その人らしさがもっとも現れる家の空間。“好き”が詰まった“場”には、ちょっとした工夫やこだわりが反映されているはず。
それぞれ違った個性を持つ家の内装やインテリアについて話を聞いていく企画、「イエの探求」。
今回訪れたのは大阪市内のマンションで暮らす、福住慎祐さん。
市内で美容室を経営する福住さんの一番の趣味はインテリア。
家族3人で暮らすマンションの一室は、モノトーンの中に旅先で受けたインスピレーションがスパイスとなって、洗練された空間に。
憧れのイメージを詰め込んだリビングはまるでひとつの作品のよう。
空間を緻密に整え、限られたスペースを贅沢に楽しむ工夫を見せてもらった。
香りで演出する洗練された空間
ドアを開けた瞬間、家主とともに出迎えてくれたのはどこかノスタルジックで個性的な香り。
香りの正体は、この家で暮らす福住さんが自ら選んでいるポプリやお香だという。
福住さん「香りを愉しむアイテムが好きで、つい買ってしまうんですよ。今朝お香を焚いていたのでその香りかもしれないですね」
目線の先にあったのは京都で購入したという香炉。リビングの隅にあるアンティークベンチの上にディスプレイされている。
ローテーブルの上にもLe Laboのルームフレグランスや香水が、ダイニングの隅には長年愛用しているというサンタ・マリア・ノヴェッラのポプリも。
シンプルに整えられた空間に満ちるオリエンタルな香りに、まるで異国のホテルにいるような感覚を覚える。
余白を残し、暮らしに非日常のエッセンスを
イサムノグチの照明が印象的なリビングは、福住さんのこだわりがよく表れているスペース。
福住さん「家具が低いほうが部屋が広く見えるので、もうずっとそうしています。家具を買うときも空間が広く見えるものを選ぶようにしていますね」
ローテーブルにローチェアなど、高さのない家具が目線を部屋の奥まで導いてくれる。
空間に大きな余白があることで実際の広さ以上の奥行きを感じることができる。
「ホテルのロビーって、だだっぴろいところにポツンとチェアが1脚だけ置いてあったりしますよね。ああいうのに憧れがあって。だから、家の中をぎゅうぎゅうにしたくないんです」
部屋を見回すと、テレビや時計など一般的な家庭にあるはずのものがないことに気づく。
「テレビも時計も置きたいんですが、今は置く場所がなくて」
決して狭くはないLDKだが「置く場所がない」、とはいったいどういうことだろうか。
「テレビも時計もないと不便なんで置きたいとは思っているんですが……余白を崩したくないので、余白を考えると、『置くところがない』になってしまって。とりあえず今は諦めてます」
生活感を排除し、余白をたっぷりと残した空間は雑音がなく、どこか非日常を感じさせてくれる。賑やかな都心部で暮らすからこそ、凛とした静けさのある住まいが心地良い時間を運んでくれる。
旅先で得たインスピレーションをかたちに
色味を抑え、ハンサムでコンサバティブな印象の福住さんの自宅。すっきりとした室内にアクセントとして際立つのは個性的なアイテムの数々。
「サイドボードの上にある、丸いオブジェはバリで購入したものですね。ベンチの上に飾ってあるものも同じくバリで。確か日本円で1000円くらいだったと思います」
北欧テイストの家具で整えられた部屋に、対照的ともいえるオリエンタルなエッセンスが加わることで空間がより引き締まる。オブジェとともに配置された南国を思わせるグリーンも好相性だ。
「何年か前に、雑誌でジェフリー・バワというスリランカの建築家の特集をやっていたんです。その中にアジアのテイストとモダンなテイストを組み合わせているホテルがあって、すごく印象に残っていて」
東南アジアによく足を運ぶことも手伝って、インスピレーションはさらに深まっていった。
「海外で宿泊するホテルを選ぶときは自然とインテリア重視で選んでいます。ラグジュアリーなホテルもいいですけど、僕はほとんど内装を見て決めています」
旅先でも感性がフィットする空間を求めることでアンテナが磨かれていくのかもしれない。生活から離れ、非日常の環境に身を置くことで、より、自分の好きなものが見えてくる。
福住さんの自宅にある家具や雑貨の多くは旅先で求めたものだそう。
「このローチェアは福岡に旅行に行ったときに、リサイクルショップで買いました。デザインがよくて気に入って。ローテーブルは沖縄ですね。沖縄に行ったときに家具屋さんで偶然見つけました。今思うと、どれも旅先ばかりですね」
描くように空間をつくり上げる
現在の住まいを選んだ理由を尋ねると、「シンプルだったから」と話してくれた。
「ガラス張りや、コンクリート打ちっぱなしなど、いわゆるおしゃれな家にも住んだことがあるんですが、生活感が一切出せない不便さというか、部屋に緊張感が出すぎるんです。シンプルな部屋なら家具で調整ができる」
現在の住まいは、アンティークのサイドボードやダイニングテーブルなど、長年愛用しているお気に入りのアイテムがよく映えるキャンバスのような家。
どんなに小さなアイテムにも福住さんの “ 好き ” が必ず詰まっている。
「作品と言うとだいぶ大げさかもしれないんですが、部屋を理想の作品に近づけたい、そんな気持ちがあるのかもしれないですね」
福住さんの住まいで過ごすうちに感じたのは、必然性。どのアイテムも、そこに置かれている理由が存在するかのように見える。パズルのピースがはまっているかのように、隅々までしっくりとそれぞれのインテリアが調和している。
一つひとつのアイテムへの愛着と、空間を作品ととらえる感性の賜物だろう。
真っ白な箱に閃きと驚きを表現する
香りや、余白、アンティーク家具など、細部にまでこだわりと “ 好き ” が詰まった、福住さんの暮らし。
インスピレーションに忠実に理想を追求するスタイルは、どこか職人のようでもある。
そんな福住さんがもし、UNSTANDARD の家で暮らすとしたらどんな家を選ぶだろう。
「NONDESIGNシリーズが好きですね。フラットが一番いいかもしれない」
選んだのはコの字型の間取りが特徴的な NONDESIGN FLAT 。
中庭を囲んだ間取りが家の中に開放感を与えてくれる。
「実は、いつか家を建てるなら、絶対にコの字型がいいなと思っていたんです。こういう間取りならカーテンが無くてもいけそうですよね」
プライバシーが守られる中庭があることで、外の目を気にすることなくカーテンを開けることができるのは大きなメリット。思い切ってカーテンを外して、すっきりとしたインテリアを楽しむこともできる。
真っ白な箱をイメージしたNONDESIGNシリーズ。福住さんならきっとインスピレーションを働かせて、とびきりの作品を作り上げるに違いない。
「あとはベタですが、子どもと中庭でバーベキューとかもやってみたいですね。マンションではできないことなので」
まだ子どもが小さく、休日は家族で外遊びをすることが多いという福住さん。中庭のある家なら、お家時間を楽しむなど、新しいライフスタイルも見えてきそうだ。
「今みたいな都会の暮らしで考えると戸建ては難しいけど、いつか広いマンションをリノベーションしてみたいですね」
これからの住まいについて尋ねると、余白を大切にする福住さんらしい答えが返ってきた。
描きたい作品があるのなら、キャンバスは大きすぎるくらいがちょうどいい。
きっと旅を重ねるほどにインスピレーションはこれからも広がっていく。
「一番の趣味を聞かれたらやっぱりインテリアかもしれないですね」
STAFF
[Text]
SAE HANE