一番その人らしさが現れる家の空間。“好き”が詰まった“場”には、ちょっとした工夫や色合わせのこだわりが反映されているはず。そんなそれぞれ違った個性を持つ自宅の内装やインテリアについて話を聞いていく企画「イエの探求」。
中古マンションの購入とリノベーションを短い期間で2度繰り返すなか、それまでの趣味や趣向、価値観までもがみるみる変化していったと、佐藤早矢さんは打ち明ける。それはとりもなおさず、彼女が自身の心と体と、普段からまじまじと向き合ってきたからこそ。スタート地点においては「インテリアに興味すらなかった」という彼女に、いまにいたるまでの家づくりのいきさつを聞いた。
心と体と向き合い、快適を知る。
「普段から、なにか感じたとき、なぜ自分がそう感じたのかをメモに残すんです。そしてそれらの共通点を見つけて、自分が本質的になにに悩んでいるのかを知る。そういう、点をつないで線にするような作業は、インテリア選びでも同じかもしれません」
インテリア選びのコツについて訊くと、少し考え込んだあと、ちょっと意外な角度から、でもきっぱりと的を射る佐藤さん。たとえばインスタで気になって保存したインテリアの画像も、あとから俯瞰して眺め、「いまこんなデザインや色味が気になっているようだ」と結論づける。「じゃあ、部屋づくりに良さそうなインテリアは何だろう?って、そこから探しはじめるんです」
ネットで見つけたモノそれ自体を取り入れるのは当たり前。彼女はそこから踏み込んで、そのときの自分をとりまくムードや気分を導き出し、それに沿った最適解をはじき出す。するとさまざまなインテリアが、“軸”によって、ひとつの空間にまとまりよく収まる。
また、家のなかでもっとも居心地のいい場所について訊くと、「日当たりがすごく大事な人間なんです(笑)日光を浴びるとセロトニンっていう幸せホルモンが出るので、リモートワークもここ、お昼を食べるのもここ」と、窓際のダイニングテーブルを示す。
極めつきは、「モノが多いと、気持ちがあまり元気じゃなくなっちゃう」と、これまた気になる発言をさらり。「たとえば光とか匂い、音も、刺激の強すぎるものはしんどくなる。だから、電気はシーリングライトみたいなものはひとつも付けず、間接照明に。夜はそれでも2個くらいしかつけません。それではじめてリラックスできます」
自分の心と体とまじまじと向き合い、自分の快適を知り、そして部屋づくりに活かす。至極まっとうに聞こえるが、そこまで自分の一挙手一投足をふだんから顧みながら暮らしを思うのは、やすやすとできることじゃない。かといって意固地でもなく、あらゆることを紐解くのを根っから楽しんでいるように見える。
興味なしから、大好きへ。
1軒目の家を購入するまで、インテリアにはとんと興味がなかったという。リノベーションについて考えてみたこともなかった。
それが一転、いまや「インテリアが大好き!」と言ってしまえるほどになったきっかけは、中古マンションの仲介事業が主軸だった以前勤めていた会社。それから、中古マンション購入とリノベーションを2セット繰り返すなかで、その思いはたやすく翻ってしまった。
1回目は、都内のマンションを購入し、およそ50平米をほぼワンルームの間取りにリノベーションした。「すべてのお部屋がつながって、空気や光が回遊するような空間にしたかったんです」。それから2年ほど経ち子どもが生まれ、住まいに必要な条件が大きく変わったため、きっぱり、住み替えることに決めたのだという。
「それまで暮らしていた家の雰囲気はもちろん気に入っていたので、ある程度そのまま残しつつ、アップデートしました。大きくは間取りですね。子どもを見守りやすい建具のカウンターキッチンにしたり、キッズスペースをキッチンの隣に置いたり」
塗装風のクロス、真鍮、リブパネル……。散りばむ工夫と偏愛。
現在暮らす住まいは、2021年に購入したもの。1回目の経験を踏まえながら、さらに心地よく暮らせるようリノベーションをほどこした。
たとえばモルタルの壁は、1回目同様。白壁よりもいちだんと深い印象を演出でき、観葉植物やポスターなど、なにを置いてもよく馴染む。その底力にすっかり惚れ込んだ佐藤さんは、「グレーって、本当にすごいです!」と、しみじみ。一方、白壁は白壁で、さりげない工夫がある。「まるで塗装壁のように見えるクロスを選びました。塗装壁がとても人気だと思いますが、こうしたクロスなら、その雰囲気も叶えられて、コストは抑えられる。おすすめです」
また、家のところどころに真鍮を用いるのも、1回目を踏襲。キッチンカウンターの下部に、塩ビタイルパネルとフローリングの継ぎ目になど、さりげないアクセントを加えながら部屋のトーンを揃えてくれる。「深い木の色やヴィンテージアイテムなど、私が好きなインテリアにとてもよく馴染むんです。くすんでくる経年変化の様子も、美しいんですよ」
かたや、2回目のリノベーションで新しく導入したもののひとつがカウンターキッチンだった。「カフェのようなカウンターにするために、このリブパネルをどうしても使いたくて! これを起点に、住まい全体の色味などを決めていきました」
テレビを壁掛けにしたのも今回が初めて。YouTubeなどで映像を流しておけば、隣接するポスターともしっくりくる。プロジェクターにするとなおのこと気配が薄い気はするが、「やっぱり仕事柄、テレビ愛みたいなものもあって。いい映像で、いい音で、みたいなところでいうと、テレビは捨てがたいんですよね」と、偏愛を覗かせた。
引き取って、後世に残すことがしっくりきた。
だれかが使ってきたものを、つくりなおし、また愛着を持って使っていくことの尊さ。2回の中古マンション購入とリノベーションを経て、いま彼女が実感しているのは、そういうことだという。
「古着とか、もともとすごく苦手だったんですよ。潔癖じゃないですけど、『あり得ない』くらいに思っていました。でも、1回目のリノベーションをするなかで、その考えがまるっきり変わっていった。だれかの想いのこもったものを引き取って、さらに次に渡していく、そういう価値観が、すごくいいなと思えて」
気づいたとたん、ヴィンテージの世界にもみるみる興味が湧いて、驚くことに、古着もむしろ進んで手に取るほどになった。「ちょうど子どもが生まれる前後だったのもあると思います。後世に残すみたいなのが、しっくりきたのは」と、偶然やタイミングも味方につけ、過去や習慣にことさらとらわれず、経験をきちんと自分のモノにした。
そしてふと、「いつもこんなふうに、あれこれ分析してばかりいるかも」と、我に返ったように恥ずかしそうに笑う。「行動や選ぶときの理由とか、すべてにおいて自分が納得できるまで考えたいタイプかもしれません。そしてきちんと言語化したい」と、融通の効かないピュアネスを打ち明けた。
「次の家は、和モダンな雰囲気にしようと思っているので」
そんな佐藤さんは、そう遠くない未来、平屋の一軒家に住みたいと考えているそうだ。「関東圏で、でも家のまわりには緑しかないような場所で」と、どこに建てるかのイメージまである程度固まっている。
では、もしもNONDESIGNの家に住むとしたら?「いろんな商品があるんですね! こういうの、つい、じっくり見比べたくなっちゃう……」と、時間をかけて選んだのは、自然との調和をコンセプトにしたワンフロアのWOODBOXシリーズ「BUNGALOW」。
WOODBOXシリーズ“BUNGALOW”
「外観のルックスもすごく好き。内装も好みです。ただ、フローリングの色味にはこだわりたいですね。明るい色がいいかな。次の家は、和モダンな雰囲気にしようと思っているので」
子どもと安心して暮らすためにいまの住まいでもこだわった間取りについては、「キッチンが中心になっていて、そこからどの部屋も見渡せるからいいですね!」と太鼓判。「キッチンの上にロフトがあるんですね。子ども部屋を、あえてそこにするのもいいかも。秘密基地っぽくて子どもも喜びそうだし、遊んでる音が聞こえるほうが、安心だと思うから」
ちなみに、もっかハマっているのはキャンプで、これから本格的に家族の趣味になりそうだという。「だから、お家も、自然と一体となって暮らせるような場所にしたいと思っています」と、簡易サウナや花火、バーベキューを庭で楽しむ想像も膨らませる。「キャンプは、心地よい“サブの暮らし”を整えていく作業のような気がしていて、インテリアにも通じるところがあると思うんです。だから部屋づくりが好きなひとは、絶対にハマるんじゃないかな」
STAFF
[Text]
MASAHIRO KOSAKA(CORNELL)